視線を感じた。

 なんだろう。誰なんだろう。

 周囲を見回して、視線があってギクリとする。

「テ…………………………テル」

 怪しい。

 事務所の廊下の曲がり角の向こうに身体を隠し、顔半分だけを覗かせ、恨めしげーな眼差しを向けてくるなんて、変人以外の何者でもない。



「どうした、テル? こっち来い」

 コイコイ、と手招きをして、入れたばかりのホットココアをくれてやる。しかたない、可愛くないが後輩だ。落ち込んでいるときくらい優しくしてやろう。

「おまえ今日ははいってないだろ? どうした?」

 ずずっ、とホットココアを飲んで「あまっ」と文句をいう可愛くない後輩は、無言で半分も飲み干した。甘いって言ったくせに飲むのか。



「ホラ」

 クッキーを出してやる。今朝焼いたばかりの自信作だ。ひとつ摘んで食い「あまっ」と文句をいいつつ、可愛くない後輩は二個目に手を出す。甘いって言ったくせに食うのか。

「タダさん、これなに? 美味い」

「あ、それ林檎酒いれたんだ。美味い?」

「美味いです」

 わざわざそれを選んで食べるあたり、気に入ったらしい。うむ、苦しゅうない。



 廊下の向こうからガヤガヤと人の声がするので、そちらに視線を向けた。ジュンさんたちが戻ったらしい。

 視線を戻した瞬間、視界に何かヘンなモノが映った。

 もう一度廊下のほうを見る。特に何もない。

 視線を戻す。

「あ」



 なぜか、テルの背中にくっきりと、足跡が付いていた。



「おまえ、それ、何?」

 聞いて後悔する。

 可愛くない後輩は悲しそうな目を向けてきた。ぜんぜん可哀想にみえない。

「ニ…………」

 言葉に詰まったのか、クッキーが詰まったのか。

「…………ニ…………ニコめぇ!」

 暴れだすし。

 なにやらわめき散らす可愛くない後輩から早々に退散することにした。



「あ、タダ君」

「おー、ニコ。な、テルのあの背中、どうしたんだ?」

「え? あのね、ゲシッて蹴ってあげたの」

「……どうして?」

「え? だって、夏至だから」

「…………」

 誰だろう。また余計なことを吹き込んだのは。



 可愛くはないけれど、哀れな後輩だと思った。





<<ニコと愉快な仲間たち 011


一覧