「ハル、釣り竿ん作り方教えたる。山行くど」
 不満を顔に出さず頷く。
 午前中はずっと山に籠り、そのまま昼に帰ったのでカイネには会えなかった。


「ハル。おいちゃんいつ来るん?」
「知らん」
「ずっと来んくてよかとに」
「なんで?」
「ハルはずっとここにおれば良か。街な行かんで良か。帰ったらもう遊べんやっか。こけ居れ、ハル」
「アホ言うな」
 叔母が眉を寄せていった。
 空になった息子の茶碗を取り上げ、飯をよそう。
「ハル、まだ食べんね。ユウサク、漬物取ちゃり。丸々太って帰らんばよ」
 叔母の善意は完食できるものではなかった。大人の都合を山盛りよそわれたところで、どんなに旨い慰めや気遣いがあっても満腹にはならない。子供はただ痩せ細って死んでいくだけだ。
 なぜ、大人はそれがわからないのだろう。
 忘れてしまったのだろうか。
「ハル、釣り行くど」
 従兄弟の陽気な声が頭に響いた。
 その茶碗には米の一粒もない。


カイネ003
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