午後を少し過ぎて。

 うだるような暑さを少しでもしのごうと、男たちは陰に集まっている。あれだけ集まっていればかえって暑いだろうにと思った。

「にーちゃん、にーちゃん」

 妹が駆けてくる。両手に何かを掴んでいるらしく、危なっかしい。

「イリ、どうした?」

「あのね、これね、植えてって」

 妹の両手が開かれると、胡桃よりももう少しだけ大きな木の実があった。

「誰が?」

「あのね、このまえの下の人」

「したのひと?」

「お花のみつをくれた人。これね、植えてって、きたの」



 親方に一言断りをいれて、妹の手を引いて墓場に向かった。

 墓場の前に広がる花園には村人がきている。少年たちをチラリと見て、また花摘みに戻った。まるでいなかった者のようだ。

 花園の一番そとに穴を掘り、木の実を植えた。

「花の種かな」

「お花が咲くの?」

「花は種からなるんだってさ」

「ふーん。どんなのが咲くんだろうね」

 妹の目はもうキラキラと輝いている。



 それから妹は毎日のように墓を磨き、種を植えたそばに座り込んで花を待った。

 三日経って、十日経って。ひと月が過ぎた。

 やっぱりな、と思った。魔法でもない限り種から花を咲かせられるわけがない。この痩せた土地でこれいじょうのものが得られるはずがない。



「あのね、にーちゃん。種のとこね、黒いの」

 椿の花が全部落ちてしまった頃、妹がそんなことを言いだした。

 花は模様替えしたのか、小さな青い花や細長く白い花びらに変わり、短い草がびっしりと生えた。花園というより草原のように青々したものになった。

 草原というものはみたことがない。村に立ち寄った商人が珍しいこともあるもんだといって、花を大量に買ってくれた。それで少年たちの懐が暖かくなったわけではないが、村は突然の収入源を喜んでいる。

「でね、ちょっと冷たいのよ」

 妹に手を引かれていくと、確かに種を植えた場所が黒くなっていた。触ってみると冷たい……湿っている。

「……水だ」

「水? お水こぼしたの?」



 手近な石で黒い地面を掘ってみる。掘っても掘っても湿り気を帯びた土が続く。

 手がしびれ、穴にひじが埋まる頃。

「あ」

 じわ、と何かがにじみ出た。最初それが何なのかわからなかった。

 手を覆う、滑らかな重圧。骨までしみこむほどの冷たさ。鼻の奥をくすぐる濃厚な土の香りが立ち上る。

 つるん、と穴からソレが溢れた。

 呆然と見つめていると、妹の声がした。



「お水だー!」





 珍しいものが大好きなある学者が、あるとき、広大な荒野で迷子になった。運良く助けられ運びこまれた先で、彼は楽園を見てしまった。土壌と気候をまったく無視して咲く草花。滾々と湧き出る泉--学者は天国に来てしまったのかと嘆いたという。

 だが話を聞くと、それは村を救ってくれた魔導士の仕業だという。九死に一生得た彼は、後の書物にこう書く。

〈見渡す限りの砂の大地。生えるのは岩ばかり。

 しかし神々はその地に根付く人間のために楽園をひとつくださった。

 人々は、村の小さな楽園を、魔法使いの足跡、と呼んでいた。

 だがわたしはやはり、神々の恩恵だと思う。

 なぜなら、少女がこっそり教えてくれたのだ。

 あれは、小さな友人からの贈物なのだ、と〉





「にーちゃんお水よ! いっぱいね!」

 あふれ出して流れ続ける水。

 花園のそばで滾々と湧き出る小さな泉。

 そのなかで、妹が幸せそうに笑っている。

 小さな足が水に浸され、黄色い声が上がる。

 小さな手ですくって空に放り投げる。キラキラと水が輝いて落ちる。



 少年はその、キラキラと輝く笑顔をくれたものに、なによりも感謝した。





友の贈物002


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