翌日、薪を削って花を作った。無骨でへんてこりんだが、ないよりはましだろう。

「イリ、墓参り行くぞ」

「うん」

 少年は背中に暖かい生き物を背負っていた。少年たちの両親と同じく祭りの日に親を亡くした赤ん坊で、少年たちの母親が抱きしめていた。

 少年たちと同じく『ケガレ』なので誰も引き取ろうとしなかった。しかたがないので『ケガレ』同士、村の端で暮らすことにした。仕事は今までどおりさせてくれるというし、叔母は前以上ではないが面倒を見てくれるようだ。



 昔は『ケガレ』は村から追い出すことになっていたらしいが、さすがに子ども二人を追い出すのは不憫だったらしい。しかも赤ん坊までいるのだ。

 しばらくはコートの男たちがくるらしいので、体面を取り繕うために温情をくれたのだろう。中途半端で気に食わなかったが、文句が言える立場ではなかった。



「あ」

 妹が走りだした。

「転ぶなよ!」

「にーちゃん! これ! これなーに!?」

 妹は両手を振り上げて叫んだ。少年の目にもそれが飛び込んだ。



 赤。黄色。萌黄。紺。薄桃。紫。緑。藍色。若木--手を触れることもできなかった高価な生地のような地面が広がっていた。

 鮮やかで、艶やかで、眩しい色。

 甘い香り。

「……花だ」



「花! これがお花!?」

 妹の小さな指が薄桃色の花びらに触れる。

「すごい! ふわってしてるよ! サラッてしてるの! ……いい匂い」

 夢を見ているようだ。

 薄紫色の花に顔を寄せて嗅いでみた。甘くほろ苦い匂いがする。指に触れる茎は瑞々しく、しなる。葉の表面に走る筋の一本一本。花びらの中まで小さな花が密集している。

 枯れた大地は砂と石ばかりで、なんとか食べられる分の作物しか成らないのに、ここはまるで楽園だ。あるはずのない夢の国だ。

「あいつだ……」

 ボヘッとしてボヤッとしてひょろ長い男は、自分は魔法使いだといっていた。魔物も退治してくれた。少年たちの親は助からなかったが、村のすべてが失われたわけではない。

 この花園を信じないわけにはいかない。



「スゲー……」

 嬉しさと感動に浸る少年の服のすそを何かが引いた。妹かと思い振り向くと、

「…………………………………………………………」

 少年は妹を見た。花を一つ一つ見て触れ、匂いをかいでいる。

 また少年は自分の横を見た。少し視線を下げる。

「…………………………………………………………」

 赤ん坊ではない。妹よりも少し背は低い。男だろう。尖った鼻が下を向いていて、くりっとした丸い目はきれいな空色だ。そして、髭モジャだった。

「なぁ、なぁ。ちょいと話を聞いてくれんか」

 しかも人語を操っている。

 倒れるかと思った。



「頼みがあるんじゃ」

「なっ、なんだよ!」

 一見、普通の老人である。ただ小さい。そう。非常に小さい。それ以外はなんてことはない人間……なんだろうか?

 ちょっと恐い。

「この花園はおまえさんのものか?」

「ちっ……だったらなんだよ!」

「頼みがあるんじゃ。蜜を少しくれんか?」

「みつ?」

「仲間が病気なんじゃ。花の蜜で薬を作ってやりたいんじゃ。蜜をくれんか?」



 はなのみつって、なんだろう?



「ど、どれくらい?」

「一輪分でえぇんじゃ」

「……いいよ。持ってけよ」

「おぉ! ありがたい。ありがとう!」

 髭モジャの小さな男は少年の肩の辺りまで跳ね上がって喜んだ。人間じゃないかもしれない。



 髭モジャの小さな男は花園にはいり、一輪を選んだ。一輪というか低木だった。真っ赤な花が咲いている。

「椿か。えぇのがあるな」

「それ、つばきっていうの?」

「うまいぞ。ほれ」

 赤い花は簡単に取れた。枝についていた部分を口に含んで吸うと、口の中にまろやかなものが滑り込んできた。

「あまい」



「にーちゃん、だれ?」

「ほら、イリ、吸ってみな。甘いぞ」

 妹に花をひとつ取ってやる。色の薄い唇が真っ赤な花に吸いついた。そのまま色が写ってしまいそうだったのに、離れた唇は不健康な色のままだった。

「あまーい」

 小さな妹が、笑ってくれた。





友の贈物001


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