親が死んだのは祭りの最後の日だった。



 妹を抱いた母は痛いくらいの力で少年の手を掴んだ。男たちが次々に村の外へ向かうのに、他のものはみんな反対側に走った。母に連れられて少年も走った。

 大勢の人が集まったところに着くと、母は少年たちを叔母に任せてもと来た道を走っていった。



 何日経ったのかわからない。

 暗い色のコートを着た集団がやってきて、村から魔物を追い出した。それからまた何日か経って、魔物が退治されたと村長が言った。



 包丁を持って出て行った父は、左足と右手のひじから下がなくなって、わき腹が抉られていた。

 母は頭の半分がなかった。その腕のなかに、見知らぬ赤ん坊が抱かれていた。



 祭りの日に死んだのは、少年の両親も含めて四人だった。翌日三人。次の日に四人。さらに次の日に九人死んだ。

 最初の四人は墓地の端に共同墓地を造って埋葬された。四人もはいっているのに、ほかの墓石よりも小さな石が置かれた。石には両親の名前が彫られているらしいが、少年には読めなかった。



「とーちゃん、戻ってこないね」

 妹はまだ小さい。死ぬ、ということがまだよくわからない。

「父ちゃんと母ちゃんは戻ってこない」

「どーして? どこ行ったの?」

「この墓の下だよ。墓の下にはいったら、もう戻ってこれないんだ」

「どーして?」

「神さまがそう決めたんだ。神さまは目隠しをしてて、ときどき指を地面に向けるんだ。その先にいた人間は死んで、墓の下に行かなきゃならないんだ」

「どーして神さまはそんなことするの? もうとーちゃんとかーちゃんに会えないの?」

「会えないんだ。神さまがそう決めたから」

 妹は墓のまえで大粒の涙を流した。

 小さな手は土と血で汚れていた。墓の下にいった両親のもとに行こうとして地面を掻いたのだ。柔らかい爪がひとつ剥げた。



「お墓には、お花をあげるの?」

 暮れかけた墓地。二人は一日中そこにいた。

 ほかの墓の前には花が飾ってあった。祭りの日以外に死んだものの墓だ。

「うん。墓の下には花が咲かないんだ」

「お花をあげないとね」

 妹は小さい。花がどれだけ高価なものなのかもわからない。

「待ってろ。探してくる」

 村長にかけあって、ひとつでももらえないだろうかと思った。

「おとなしくしてろよ」

「うん。ここにいるね」

 妹は墓の横に座った。



 花はもらえなかった。

 妹はがっかりするだろう。でも、いつかたくさん稼いで花を買ってやろう。



 急いで戻ると、妹のそばに怪しげな黒いものがいた。大丈夫。人間だ。

 黒いコートを着た男は偶然、墓地に来てしまったらしい。格好は怪しげだが、妹は怪我もなく平気な様子だ。



「花はあったのか?」

「てっ、てめぇにカンケーねぇだろ!」

「にーちゃんお花はー?」

「うっ」

 妹は小さい。兄がどれだけ虚勢を張っているのかわからないだろう。

「ま、また今度な」

「……うん」

 妹は小さいのに、素直にうなずいた。



「生花は見たことないのか? 時期が来れば枯れてしまう、咲いてそのままの花」

 ヘンなことをいう男だ。そういえば、黒いコートを着ている。魔物を退治してくれたというひとだろうか。

「あんた、誰?」

「誰、と言われても……魔法使い、っていってわかるか?」

「魔法使い? あんたが?」

 この、ボヘッとしてボヤッとしてひょろ長い男が魔法使い?

「似あわねー」

 男はがっかりとした顔になった。





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