結界のほころびは姿を変え、収縮し、拡大するとき魔物を吐き出す。まるで巨大な口が浮かんでいるようだ。

「開始!」

 声と同時に、キン、と何かが張り詰める音がした。魔物を外へ逃がさないための結界だ。魔物処理班と、結界修復班に分かれ、作業が始まった。

 彼は何をしているのかというと、指揮官ミマと背中を合わせて全体を見ている。何か察したらすぐに知らせる、いわば監視塔の役目だ。これなら能力が開花していない者にもできる。



「うーわー。見てみろよあの魔物。ちょー美人」

「…………」

 この人が悪魔に魅入られて破滅の道を歩む日はいつだろうか、と彼は思った。

「あ。あらやだ」

「地が出てますよ」

「おっといけねー」

「どうしました?」

 ほら、とおなべ先輩が顎でしめす。

「悪魔がきた」

「!」



 砂と岩の広がる光景に、どでんと蛙が現れた。

 普通の蛙だったならばなんともなかろうが、縦横大人三人分はある巨大蛙だ。しかも目が五つある。尻尾の先がさそりに似ていることも付け加えよう。さらにいうなら……頭に仲間が一人乗っている。

「何やってんだアイツ」

 助けてー、と声がした。どうやらあの仲間の足元から出現し、逃げ遅れたらしい。

「よし。おまえは監視してろ」

「あの、指揮官が」

「おまえが適当に指示だせ」

「ミマ先輩、適当って意味知っていますか?」

「『なんとなく』」

 おなべで美少女好きな先輩は嬉々として悪魔に向かっていった。戻ってきたら『五才から始めることば学習帳』を贈ろう。





 指揮官ミマが悪魔蛙を足蹴にしている間に、結界の修復は完成し、悪魔の一掃も済んだ。悪魔蛙がピロピロいいながら巣穴に帰っていく姿をみて、なんとなく可哀想だな、と彼は思った。

 村からお礼として一晩の宴が開かれた。次の仕事が迫っているものは早々に帰還したが、それでも半数は残った。

 彼は腹を満たすと席を立った。



 昼間は風が吹けば砂埃がたって視界は白く霞み、地平線すら見えなかった。明るい月夜の今は風も穏やかで、ツンと冷やされた空気の向こうに地上と天上の境がくっきりと刷かれている。右を見ても、左を見ても二色のコントラストが延々と続いていた。

 放浪者のようにあてもなく歩く。



 薄暗闇の中で、何かが動いた。

「だれ?」

 幼い少女の声がした。

 気づくと、あたりは石が立てられただけの墓場だった。

 自分の頭ほどの墓石の前に、少女が立っていた。

「お墓まいりにきたの?」

「いや……。君は?」

「とーちゃんとね、かーちゃんのお墓よ」

「…………」

「とーちゃんとね、かーちゃんはね、お墓のしたの階段をおりていったんだって。でね、もう会えないんだって。それでね、お墓のしたはね、お花がさかないんだって。だからね、いまね、にーちゃんがね、さがしにいってるんだよ」



 今回の結界の綻びからは大量の魔物が吐き出され、近くの村に押し寄せた。魔導士が派遣されるまで、どれだけの人が死んだのだろう。祭りの最終日だったというのに。





花のポポドス001


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