悪魔の叫びだ!



 最初に言ったのは、村で一番の年寄りだった。

 泣きじゃくり、暴れだす子どもは何人もの大人たちに押さえ込まれ、乾いた土を噛んで嗚咽に喉を詰まらせていた。胸の上に乗られて呼吸が苦しいのに、誰もそれに気づいてはくれなかった。



 悪魔を呼んでいる!

 恐ろしい!

 仲間を呼んでいるんだ!

 不吉な!

 死の呼び笛が……!



 投げつけられるものが小枝から石に変わるのに時間はかからなかった。どこに逃げ出しても噂の俊足には追いつけず、村という村を、町という町を転々を逃げ回った。

 腹が減って畑のものを盗み、川の水を飲んで喉を癒した。水面に移る姿は石を投げてきた小さな少女とかわらない姿だった。

 人の顔、人の身体。言葉だけが違う。言葉がわかるのに、伝わらない。その声はおぞましいからと、口いっぱいに泥を詰め込まれたこともあった。



 疲れ果てて森の大きな木の下で眠っていると、いつの間にか取り囲まれていた。銀で編んだ網で捕らえられ、その重さに膝を折った。



 不吉だ!

 穢れだ!

 忌まわしき悪魔の使徒め!



 今まで見たこともない大勢の人間の間を通り、きれいな石畳のうえを歩いた。

 両手は銀製の鎖で後ろに回されていて、足にも大きな重りがついていた。首輪の内側に鋭いものがついていて、動くたびにチクチクと刺した。階段を上るときが一番辛くて、途中で休もうとすると、首輪に繋がった鎖の先を引っ張られ、金臭い匂いがプンとした。

 高い台座に上ったとき、あまりの人の多さに眩暈がした。生まれた村の何倍の人々がいるのだろうと目を見開いてみた。視線が合うと誰もが恐ろしいと泣き叫び、うずくまって震えた。



 人。

 ひと。

 ひとのむれ。



 首輪がはずされ、前のほうに丸いくぼみのある台座に前身を乗せるように押し付けられた。

 何が起こるのかまだわからなかった。あとになって、自分がどんな扱いを受けていたのか知ると、恐ろしさに歯の根が合わず、師のそばを離れることができなかった。



 気づいたとき、目に痛いほど白い毛布にくるまれていた。大きな髭面の男--今では師と仰ぐ人に救われたのだと後になって知った。

 暖かい。

 つぶやくと、そうだろう、と声が返った。

 言葉が伝わった。





声のアンレーナ001


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