「はーるがきーたっ

 はーるがきーたっ

 どーこーにぃーきたー」



 耳から脳みそが垂れてきそうな暢気な声がする。

 振り返ると、ニコが両手にバナナを一本ずつ持って歩いていた。なぜバナナ?

 そしてなぜおまえの帽子はバナナの形をしているんだ。特注か? 恐ろしいほど似合っているぞ。



「やーまにきーたっ

 さーとにきーたっ

 あ、てる!」

「バイトか?」

「違うよ。オハナミするんだ」

「花見?」

 それで酒の肴としてバナナを持参しようとするニコの味覚はどうなっているんだろうか。

 たぶん花見そのものの意味がわかっていないだろうが、説明するのも面倒だ。バナナの踊り食いでもしてろ。



「花見ってかイモ洗いだろ」

「違うよ。オハナミだよ。マツさんがね、いいとこ見つけたんだって。でね、マツさんとトーコとね、カヤさんとつたちゃんと、タダ君と……」



 花見……トーコと花見……



 まだ出席者の名前を挙げているニコの肩をガシッ、とつかむ。

「おれも」

「あとみゃーこさんとぉ」

「行きたかったなー……」

 何気なく過去形。

「じゅんさんと、みや君と……いっぱい!」

 今からサンタさん家にでも行くような顔で見上げられると、鼻の奥がつんとする。暢気で平和で無知なニコの笑顔は薬にもなるが今は毒だ。

「みーんなでね、オハナミなんだよ!」



 『みんな』



 そのなかに自分が入っていない理由がわかってしまう、テル三一歳。



 春だというのに木枯らしの音がした。



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