魔法使いの朝は意外と早い。ニーナが絞りたての山羊乳を持って丘を登り終えたときにはもう、鶏の世話を終わらせて、朝食の用意もあらかた済んでいる。

 いつも黒い布を頭にかぶって、笑顔でニーナを迎えてくれる。



「おはよう、ニーナ」

「おはよう」

「今日は機嫌が良いね」

「わかる?」

「うん。髪がキラキラしてる」

 魔法使いはいつも、不思議な言葉を使う。髪がキラキラしてるなんて、よくわからない。もしかしたら都では誰もがこんな風なのかもしれない。



「父ちゃんが街に行くから、お土産考えてろって。髪飾りがいいかな? でも、お菓子もいいな」

「お菓子なら僕が作ってあげるよ」

「お菓子、作れるの?」

「うん。作れるよ。

 ねぇ、ニーナ。髪飾りもいいけど、リボンなんてどう? 若草色の絹がいいな」

「なにソレ。森の乙女みたい」

「そうだよ。ニーナの髪は、森の乙女みたいな金糸の髪じゃないか。きっと似合うよ」

 魔法使いは一日に一度はニーナの髪を褒める。毎日のことなのに嬉しい。ちっとも飽きない。

「そうかな」

「うん。似合うよ」

 その頃にはもう、魔法使いの笑顔が軽薄そうだなんて思わなくなった。



 同居人のダンクは毎日何をしているのかわからない。たまにしか会わないし、それも夕方が多い。魔法使いに聞くと、朝はなかなか起きれない性質らしい。

 貴族はよく寝坊するというから、やっぱりどこかのご子息なのかもしれない。



 そんな彼が、村の子どもたちに字の読み書きと計算を教えるようになったのは、二人が住み始めて一月ほど経った頃だった。

 村長の提案だったらしい。

 集まる子どもたちは赤ん坊と朝の仕事を終えた子と、なぜか老人もいた。初めての勉強というものにみんな興奮して、最初の何日かは騒ぎすぎて何をしているのかわからなかった。

 それまでは無口で無愛想な人だと思っていたけど、勉強会が始まってからは、ダンク先生は子どもたちに囲まれるようになった。いろんなことを教えてくれた。

 ニーナも好きになった。



「ねぇ。先生は計算だれに教わったの?」

「学校に行っていたんだ」

「学校って、お勉強するとこ? 街にあるやつでしょ」

 一日も離れたところにある町にも確か、学校というものがあった。

「ほかにどんなこと勉強したの?」

「コゴ、レキシ、テンモン、カガク、コウガク、ケイザイ……」

 なんの呪文だろう?



 とにかくダンク先生は、頭のいい貴族なんだ、とニーナは思った。





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