村で勉強会なるものが始まったのは、まだ夏が来る前だった。



 その日ニーナは、最後の菜の花を収穫していた。

 菜の花はおひたしにするのもいいし、塩漬けにしておくのもいい。でも、軽く塩茹でしてパンにはさんで食べるのが、毎年の楽しみだ。

 そんなことを思いながら鼻歌を歌いだした。隣の家のレオナのようには上手くないけれど、歌を歌うのは好きだ。



「そこのお嬢さん」

 声がして、ニーナは顔を上げた。男の人と目が合った。

 どうやらニーナは「お嬢さん」と呼ばれたらしいが、初めてのことで驚いた。村では誰もそんなシャレた呼び方はしてくれない。



「こんにちは、お嬢さん。ちょっと道を教えてもらえるかな?」

「う、うん」

「この近くに村があると思うんだけど……」

「あ、そ、それ、たぶん、あたいの村だよ」

「そうなんだ。じゃ、案内してもらえないかな? 村長さんの家に行きたいんだ」

「うん。いいよ」

「ありがとう。ちょっと連れを呼んでくるね」



 男の人が連れてきたのは、びっくりするくらい肌の白い、キレイな人だった。村長さんの娘のイレニアが見たら「王子さまだわ! あたしを迎えに来たのよ!」と勘違いしそうなくらいカッコイイ。

 対して、最初に声をかけてきた男の人は真っ黒な布を頭からかぶった珍妙な格好で、隣町でも「タラシ」と有名なイレニアの従兄妹のように軽薄な笑みを浮かべている。笑わなかったらきっとそれなりにカッコイイと思う。



 村長さんの家に行くと、村長さんはお客が来ることを知っていたらしく、二人を歓迎した。ニーナは案内をしたお礼に飴玉をもらって帰った。



 二人が新しい住民になることはたちまち広まった。

 ニーナに最初に声をかけた男の人は、魔法使いだったのだ。魔法使いなんて大きな街にしかいないから、ものすごく目立った。

 ニーナの住む村に医者はいない。医者のいる隣町まで半日かかる。だから、魔法使いが薬に詳しいと知ると、みんなとても喜んだ。

 村を見下ろす辺りにある丘の上にあった小屋に住むことになり、掃除のお手伝いさんがいっぱい集まった。ニーナもお隣さんになるので、母と一緒に手伝った。



「やぁ。この前はありがとう」

「う、うぅうん」

 声をかけられてニーナは驚き、雑巾を握り締める。

 魔法使いに声をかけられるなんて初めてだった。間近に見たのも初めてだ。

「僕はルー・ル。あっちはダンク」

「あ、あたい、ニーナ」

「ニーナか。よろしく、ニーナ」

 魔法使いはやっぱり笑うと軽薄そうに見えるけど、慣れてくるとそうでもなかった。イレニアの飼っている犬のように人懐っこい顔だ。





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