スカートを握り締めた少女は、また、新たな涙を眼に浮かべていた。

「せ……先生、も、その人のこと、好き、だった?」

「好きにならずには、いられなかったね」

「あ、あ…………」



 その言葉の先がわかるようになったのはいつからだろう。幼い頃の自分たちは傷つけあうばかりで、謝る言葉もわからなかった。

 慰める方法も知らずにいた。

 いつしか、慰めるよりも励ますことを覚えていた。



「ニーナ。ルー・ルが待ってるよ」

「あ、たい、の、こと……キっ、キライ、って……」

「一度も、思ったことはないよ。ルー・ルも、わたしも、一度も君を嫌いだとは、思ったことはない。これからも変わらない」

「ほ……ほん、と、に?」

「それを信じてくれる限り、少なくとも、わたしは、君のことが好きだよ」

「ま…………」

「訊ねてごらん、ニーナ。今ならルー・ルもいるから」



 今はまだ、会いに行けるだけ近くにいるから。

 何度も訊ねることができるから。



「わたしはここで、待っているから」



 少女は長いこと逡巡し、意を決したようにうなずいた。力強く。

 勢いよく振り返った背中で金の彩紐が跳ねる。飛ぶように駆けあげる勇ましい姿を、それはどこまでも追いかける。

 午後の暖かな日差しに輝いていた。



 その光景を眺めながら、小さく、つぶやく。

 聞くものは風のほかになく、風の精霊はその言葉を胸に抱いて遠い空へと旅立った。どこかにそれを伝えるべき人がいるような気がしたから。





 山脈のふもとに、忘れられがちな小さな村がある。

 村に住み着いた魔導士は、美しい金の髪の小さな友人に名前を贈った。

 魔導士にとって名前を与えるのは我が子か弟子だけであることから、それは親愛の意が込められている。魔導士が、小さな友人をどれだけ親しんでいたかが伺える。

 村人たちはその友情を称え、小さな友人を「金のニナエール」と呼んだ。



 また、近い将来、彼女の花嫁姿を見た魔導士は、

「浮気なんかしてみろ! 髪の毛一本一本全部抜いてやる!」

「そういうときは、魔導士らしく、呪いたまえ」

 と相棒に突っ込まれることになる。





 そうとは知らない少女は、今はただ、期待と不安を両肩に乗せ、魔導士の住む丘を駆け上がっていった。

 美しい金色の髪が、空を舞う。





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