「へぷちっ」



 もわん



 白いものが舞った。

 その白い直撃を受けたのは小麦挽きを眺めていた少女だった。

「いやー!」

「あ、ごめん」

 黒い大きな布を頭からかぶった男は鼻の下をこすりながら頭を下げる。

 自分のくしゃみで起こしたものならば男が粉まみれになるのは良いが、目の前で見ていただけの少女は可愛そうに、自慢の金髪まで真っ白だ。



「もっ、な、何すんのよバカ!」

「ごめんね。あ、ホラ、これでソバカスが隠せるよ」

 少女の鼻の頭を粉まみれの指でなでる。

 安っぽい慰めを受ける少女ではなかった。男の手を目一杯はたくと、つり気味の目でキッと睨む。

「お嫁にいけなくなったらどーしてくれんのよ!?」

「僕がもらってあげるよ」

「あんたみたいなジジイはお断り!」

 男はいたく傷ついた。

 これでも二八歳だと言い張っているのだ。

「へっぴり魔法使い! 腰抜け魔法使い!」

「うぅ、痛いなー」

 胸を押さえて背を丸める姿が胡散臭い。



 閉め切った小屋の中ではまだ小麦粉が薄く舞っている。

 少女はそれから逃げるように立ち上がり、両手で払おうとした。小麦粉は無情に指のあいだをすり抜ける。

「もうっ!」



「ニーナ?」

 扉が開けられ、小麦粉が一斉にどよめいた。

 戸口に青年が立っている。少女の叫び声を聞きつけたらしい。

「先生! 聞いて、ヒドイのよ!」

 粉まみれの二人を見ただけで青年は状況を理解したようだ。納得したようにうなずくと、少女にハンカチを差し出した。

「そんな男に、近づいてはいけないよ、ニーナ」

「もうゼッタイ近よんない! 藁編みだって手伝ってあげないんだから!」

 ご立腹の少女は、借りたハンカチで髪を白くする小麦粉を丁寧にはたく。その間にも男を罵倒するのを忘れない。

 彼女も女だ。手と口は別の生き物である。



「ありがと、先生。洗って返すわ」

「いつでもいいからね」

「うん」

 青年に別れを告げると、少女は男に舌を出して見せるのを忘れず帰って行った。





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