「ちょーっと待て!」

 寸でのところで阻止した。我がことながらすばらしい反射神経だ。

「え?」

「えじゃねーテメェ!」

「う?」

「…………」

 これで人をからかっている訳ではないのだからスゴイ。ある意味天才だ。

 だがそんなことを感心している場合ではない。まだ危機からは完全に脱していないのだから。



「ニコ、おまえ、この手に握ってるのは何だ?」

 今にも振り下ろされんばかりの手はテルによって静止させられているが、握り締められ、明らかに何か入っている。ちょっとピンク色のものがはみ出していてなお怪しい。

「なにって、あられ」

「そうか。ニコ、あられはな、食うもんだ」

「うん」

「そうだ。投げるもんじゃないんだ」

「え!」

 心底驚いた顔をされてもどうしようもない。



「だって、テル、ちゃんと祓わないと」

「何をだ。オレに何が憑いてるって言うんだ」

 なんとなく、予想がついた。

「ボンノー」

「………………………………………………………………っ」

 テルは大人としての理性をフル回転させた。

 脳ミソが半分泳いでいるニコに、怒りをぶつけたところで労力の無駄である。諸悪の根源を滅さなければ解決しない。明るい未来など子々孫々末代まで来ない。



「今日はモモの日なんだよ」

「そうだな。桃の節句だな。女の子の日だ」

「そうだよ。女の子のためにボンノーを祓う日だよ」

 明らかに違う。

「ボンノーは女の子の天敵なんだよ」

 煩悩と桃の節句は無関係だ。

「モモの日に祓わないと、ボンノーが増えちゃうんだよ!」

 大いに間違っている。



 絶対に。



 視線を感じてテルは振り返った。

「うっ」

 ビルに体半分を隠した美女がこちらを見ている。

 反射的にテルが硬直すると、口元に手を寄せ、いかにもバカにしたように微笑んだ。サングラスの向こうでは見下した目が隠れているのだろう。



「あ、みゃーこさんだ」

 美女は気づいたニコに手を振り、ヒールをこつこつと鳴らして去っていった。



(お、おそろしい)

 どこから見ていたのだろう……?



 そのときうっかり、テルは手の力を緩めた。

「おにはーそとー」



 ペシペシペシ



 あられは見事にテルを祓った。

 今年一年、安泰だろう。



 たぶん。





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