ドキドキが治まらないまま家に着いた。
父の向かいに座った彼の隣に座ると、父は彼と娘を見た。
「おまえは部屋にいろ」
なるほど、難癖つけて渋るつもりか。
安心させようと片目を瞑って見せた。
窓から、帰っていく彼の後姿をみて、居間に駆け込み父を問い詰めた。
「先生、何て?」
「おまえに関係ない」
「あるわ。あたしのことなんだから」
「おまえのことなんぞ話してない」
父はしらばっくれた。
翌日、彼の家に行くと留守だった。
次の日は迎えに行って、それとなく聞いた。
「聞いてたのかい?」
「予想しただけ。どうだった?」
「明日から忙しくなる」
父に条件を出されのだろうか。イレニアのために戦ってくれるんだ。
抱き付きたい!
十日ほど勉強会は休みになった。
収穫期なので畑に人手はいるから大人たちにとってはよいことだ。でも子どもたちは文句を言った。仕方ない、恋のためだ。
男たちが数人、彼の手伝いに借り出されたらしい。収穫期だけど、村長に言われたからみんな協力してくれるそうだ。
恋のためだからね。
ところで、何を言われたんだろう?
待つ身は辛い。勉強会もないし、毎日家の仕事ばかりでつまらない。
堪らなくなって彼の家に行くと、彼は魔法使いと出かけるところだった。
「どこ行くの?」
「村の端の森だ」
「森に? 一緒に行きたいな」
「傘を持っておいで」
デートだ!
急いで家に帰り、傘を持って走る。村端の森に行くと、男たちがいた。
「何してんの?」
「傘さして見てな」
森の木がいくらか減っている気がした。足下の土は草一本なく、均されている。
彼は中央にいて、魔法使いと本を見ながら話している。
二人が並んでいるとどうもおかしい。ヘンな二人組みに見えてしまうのは、きっと魔法使いのせいだ。
もう昼間は暖かいのに、黒い布を頭からすっぽりかぶった珍妙な姿はカッコ悪い。王子さまは何を着てもかっこいいけど、黒い布だけはかぶってほしくないな。