「おいトーコ」

 呼ばれて振り返ると壁がいた。正確にはテルの腹だった。ヤツは背丈だけは立派だ。

「チョコは?」

「は?」

「くれないの?」

「くれないといけないの?」

「……………………」

「…………」

「欲しいんですけど」

「欲しいんだ」

「……………………」

「…………」

「くれないの?」

 火のついていない咥えタバコの男がさも悲しいそうな顔をする。

 しかし、欲しいといわれてもないものはやれない。どうしてもチョコが欲しいならそのへんのコンビニで買ってくればよいのに。

 おかしな男だ。



 無言で見詰め合う二人を呼ぶ者があった。

「とーこー!」

 奇妙な生き物が駆けてくる。

「てーるぅー!」

 マフラーをぐるぐるに巻いたニコだった。なぜ鼻の下までマフラーがくる?

 ぐるぐる巻きニコは二人のそばで立ち止まると、ポケットからなにやら取り出してバリッと袋を開けた。

「おにはーそとー」



 ペシペシ



 麦チョコがテルを直撃。

「とーこもやる?」

「うん」

 二人で麦チョコをテルにまく。

「おにはーそとー」



 ペシ、ペシペシ

 ペシペシ、ペシシ、ペシ



「……………………」

「おにはーそとー」



 ペシペシ、ペシ

 ペシシ、ペシ



「……………………う、うおー!」

 テルは雄たけびを上げて駆けて去った。

 残された二人はその哀愁漂う背中が見えなくなるまで見送り、しばらく無言で見詰め合う。



「なんで麦チョコ?」

「今日はね、ぼんのーの日だから。はい」

 ニコはピーナツ入りのハートのチョコを半分に割って渡す。

「それ、誰に聞いた?」

「みゃーこさん」

 彼女はテルが嫌いだ。これしきの悪戯ならまだまだ可愛いほうだろう。

 自慢の顔に傷がつかなかっただけでも良かったね、とトーコは思った。