彼の名前はジョンダン・スプリング。
しがない探偵だ。
ちなみに「しがない」を辞書で引くと「まずしい」とある。いや、それは横に置いておこう。家賃が三ヶ月滞納したこともあるが、それとこれは別だ。
彼の生活圏にはファナという女性がいる。
大家さんが言うには「掃き溜めに鶴」というくらいジョンダンにはもったいない美人だ。
長くまっすぐな黒髪は艶々としていて動くたびにさらさらと流れる。春の新芽のような色をした瞳。女性にしては背が高く、ジョンダンの視線が彼女の頭にくる。
ファナは最近、お菓子作りにはまっている。
近所の奥方らと毎日の料理について意気投合したらしい。亭主には肴、子どもにはお菓子、と。
今日も何か作っている。
何を作っているのだろうかとジョンダンが台所を覗き込んだとき、
「あ」
とファナが一声あげて落下途中の鉄板を蹴り上げ、片手でキャッチした。
お見事。
ではない。
何だ今のは。目の錯覚だろうか。
フン、フフンと鼻歌を歌いながらファナが振り返る。
「あら、ジョン。どうしたの?」
「……いや。今日は、何を、作ってるんだ?」
「ジャムクッキーよ。もう少し待っててね」
酒屋の息子いわく「聖母の微笑み」を向けられ、ジョンダンはただうなずくだけだった。
彼女の名前はファナ。
表向き家政婦。
しがない探偵いわく『不可解な未亡人』。
しがない探偵だ。
ちなみに「しがない」を辞書で引くと「まずしい」とある。いや、それは横に置いておこう。家賃が三ヶ月滞納したこともあるが、それとこれは別だ。
彼の生活圏にはファナという女性がいる。
大家さんが言うには「掃き溜めに鶴」というくらいジョンダンにはもったいない美人だ。
長くまっすぐな黒髪は艶々としていて動くたびにさらさらと流れる。春の新芽のような色をした瞳。女性にしては背が高く、ジョンダンの視線が彼女の頭にくる。
ファナは最近、お菓子作りにはまっている。
近所の奥方らと毎日の料理について意気投合したらしい。亭主には肴、子どもにはお菓子、と。
今日も何か作っている。
何を作っているのだろうかとジョンダンが台所を覗き込んだとき、
「あ」
とファナが一声あげて落下途中の鉄板を蹴り上げ、片手でキャッチした。
お見事。
ではない。
何だ今のは。目の錯覚だろうか。
フン、フフンと鼻歌を歌いながらファナが振り返る。
「あら、ジョン。どうしたの?」
「……いや。今日は、何を、作ってるんだ?」
「ジャムクッキーよ。もう少し待っててね」
酒屋の息子いわく「聖母の微笑み」を向けられ、ジョンダンはただうなずくだけだった。
彼女の名前はファナ。
表向き家政婦。
しがない探偵いわく『不可解な未亡人』。