ピー、と高い音がした。見上げると、わずかに鳥の姿が見えた。黒い雲に追い立てられるように去っていく。
ざぁ、と粉雪が舞う。風がすべてを嘗めようと吹き荒れる。
下からあおられ、深くかぶっていたフードがめくれ上がる。それを左手で押さえて風をやり過ごす。
視界の粉雪が二度目の積雪になる頃、
「……少し、落ち着け」
低い声が宥めるようにつぶやいた。
風がまとわりつくように吹いた。
ひゅー。ほぉー。ひゅるー。こぉお……。
ぎゅっ、ぎゅっ、と足音が鳴る。
立ち止まり、大きく息を吐いて周囲を一望する。まだ見つからない。
どこにあるのだろう。
どこに埋もれているのだろう。
たぶん、一人。
たった一人で眠っているのだろう。
昼間が長くなり、陽気が増し、花がほころび草木が芽吹く頃。たった一人で、眠りに就いたのだろう。
最期に何を思ったのか。最期に何をつぶやいたのか。最期に何を、見たのだろう。
下から風が吹き上げる。雪が舞う。フードが飛ばされた。
攫われていくフードを眺める。慌てて追いかけていけば崖にまっ逆さまだ。さすがにそれはできない。諦めて、首に巻いたマフラーのひと巻きを頭にかぶせる。
ほぉ、と息を吐く。
どれくらい歩いただろう。もう少し先には行けないだろうから、もうそろそろ見つけられるだろう。目を凝らしてもう一度よく眺める。いるはずだ、必ず。
風がこんなにも冷たく吹き荒れるのだから。
いた。
ゆっくりと歩きだす。
慌ててはいけない。ゆっくり、確実にそれに近づいていく。
それは。
濃い紫色の、人の手だった。
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