朝、目が覚めると、枕元にすっぱい香りの物体がいた。



 なんとも食欲をそそる赤色、年代もののしわの入ったその姿は、しかし、朝一番に拝むには少々強烈だ。すっぱい香りが目にしみる。



「ちょっと、いつまで寝てるのよ」



 毛布にしがみ付いている私はシソでぺしぺしと叩かれる。梅干子さん、いつも言うことですけど、シソを振り回すのはやめて下さい。汁が飛びます。目に染みます。



「だったらさっさと起きて、あたしを詰めちゃいなさいな!」



 日課の台詞に叩き起こされた私は、顔を洗い、台所に立った。昨夜のうちに用意しておいた具材を調理し、お弁当箱に詰める。余ったおかずは朝食用に皿に分ける。おかずが出来上がる頃にはご飯も炊け、蒸しあがる。



 真っ白なご飯粒たちをお弁当箱に詰めると、ずっと私の動きを見ていた梅干子さんが満足気にうなずいた。私も笑って、梅干子さんを指でつまんだ。しわが痛むからと言って、食べるとき以外は箸で取らせてくれないのだ。



 ご飯粒たちの真ん中に置かれた梅干子さんは、まるで女王様のようだ。真っ白な騎士たちに囲まれた、お弁当箱の支配者だ。



「ボーっと見てないで、さっさとフタを閉めなさい。遅刻するわよ!」



 女王様に言われて初めて私は時計を見た。



 まずい。遅刻だ。寝坊したんだ。



 慌てて着替える私を見て、梅干子さんは日課のため息をこぼした。赤いしわを微笑むように整えると、梅干子さんは寝心地を確かめるように身動ぎする。



「まったく。毎朝毎朝おんなじこと繰り返しちゃって」



 着替えを済ませた私が戻ってくると、梅干子さんはフタを閉める瞬間まで小言を繰り返す。



「フタはしっかり閉めなさいよ。バッグに入れるときは、斜めにならないようにね」



 ハイ、ハイ。



「お昼になるまで、なるべく涼しいところにおいておきなさいよ」



 ハイ、ハイ。



「いってらっしゃい」



 フタも閉めて、お弁当袋に入れてしまったのに、梅干子さんの声が聞こえた。







 はい、いってきます。