「おい、まだいたのか。授業始まってるぞ」

 戻って来た少年の手に子猫はいなかった。

「具合でも悪いのか?」

 腰を屈めて覗き込まれる。真っ黒な瞳は夜空を取り込んだように深く、星が瞬くように輝いて見えた。

「あなたはいいんですか?」

「サボり」

 正直な答えが返ってきた。



「お邪魔してもいいですか?」

 芝生に仰向けになった少年は鼻で笑っただけだったが、了承と受けた。

 隣に座ると校舎が見えなくなった。

「いい場所ですね」

「お勉強はいいのか?」

「あなたは?」

「気分が乗らないんだ」

「僕も」

 少年は鼻で笑った。



「よく気付いたな、猫」

「教えてくれたんです」

「誰が?」

「……風が」

「へー。魔法使いみたいだな。何て言ったんだ?」

 冗談と思ったらしい。少年は遊ぶような声で訊ねた。

「……。間抜け猫が鳴いている。吹き飛ばそうか」

「物騒だな。それで来たのか」

 少しだけ、考えた。

「前にも、同じことがあったんです。その時の彼女は、鳴けなくて、教えてもらわなければ、見つけられなかったんです」

「鳴けないって?」

「枝で喉を怪我していたんです。見つけた時には、もうぐったりしていて……」

 思い出して、口許を押さえた。血が温かかったことまで思い出してしまった。

「助かったのか?」

「命だけは」



「飼ってんの?」

「いいえ。遠くに行くことになって、別れました」

「なんか、恋人みたいだな」

「友達だったんです……初めての」

「人間の友達はいないのか?」

 また、少し考えた。

「あまり」



「猫のほうが好き?」

「そういう訳では、ないんですけど……。ただ、何となく……」

 人の造る輪に入りにくくて。

「それで風の音を聞いてたのか」

「声です」

 まだ冗談だと思われているとわかると、ちょっとむきになった。





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