稚拙ショートショート -2ページ目

稚拙ショートショート

なんとなく思い浮かんだものを書きます

 「おいヨウキ、持ってきたか」

「うん、これだろ。これゲットするの大変だったんだよ・・・」

「そんなの知るか。早くよこせ」

「・・・うん」

俺は彼に流行のアニメのキラカードを渡した。

「よし、今日は解散だ。じゃあまた明日な」

「うん、バイバイ・・・」

リキヤは片方だけ補助輪の着いた自転車に跨り、一度も振り向かずに公園を去った。


 俺はヨウキ。6歳。今年小学校に入学した。自分で言うのもなんだが、やんちゃ盛り。お母さんに毎日のようにしかられる。そしてさっき俺の大事にしてたカードをもって行ったやつはリキヤ。6歳の癖におっさんみたいな顔の上、やたら体格がいい。リキヤの名にふさわしい言動で、少し年齢は違うが、実写版ジャイアンと言ったところか。いつも4,5人で仲良く遊んでいるのだが、彼にはなぜか絶対権力がある。みんなリキヤには逆らえない。リキヤの欲しがるものが家にある場合、もっていかなければいけない。とはいっても僕らは6歳。カード一枚でリキヤは満足して帰る。俺は今までいくつの大事なものをリキヤにあげたのだろうか。カードはもちろん、苦労して球体に収めたポケモン、ガチャポンで手に入る加熱戦隊電子レンジャーのフィギア・・・。考えただけで嫌になる。でも、俺にはリキヤはおろか、親にさえ渡すことのできない不思議な力を持っている。


 その力に気付いたのは2ヶ月前の3月。散歩をしていると、一瞬目の前が真っ白になった。お父さんがつけていた腕時計に太陽の光が反射して俺の目に飛び込んできた。わっと声を上げた瞬間目を閉じていた。ゆっくり目を開けると周囲がぼんやりと見え、白い点のようなものが瞬きするたび何度か見えた。

「お父さん、今どうやったの」

「ああ、ごめんな。わざとじゃないんだぞ」

お父さんは続けた。

「太陽から光が出ているだろ。だからお昼は明るいし温かいんだ。太陽の光は時計とか鏡とか、うまく言えないけど、そういったものに反射するんだよ。反射した光がたまたまヨウキの目に入ったってわけだ。それより、目、大丈夫か」

いまいち仕組みがわからなかった。でも、鏡を使えばさっきみたいなことができるっていうことはわかった。


 家に帰り、お母さんの化粧ポーチから手鏡を取り出した。いつも俺を幼稚園に送る時間が来るまで、お母さんが小さな板を見ながら俺の着替えそっちのけでお化粧をしている姿と、そのポーチをどこにおいているかを記憶している。間違いなく鏡が入っている。さすがに洗面台の大きな鏡を動かすことはできない。お母さんはさっき夕飯の買出しに行った、お父さんはゴルフ中継を見ながらうとうとしている。俺は手鏡を持って、太陽の光の差し込む西側の部屋に行った。まだ日が照っている。今日のうちに実験できてよかった。


 手鏡は思うように太陽の光を反射した。こんなに楽しいことがあるのかと思った。リキヤに手鏡のことを話してはいけないと感じた。これは俺だけの秘密にしておこう。そうだ、太陽に太陽の光を反射させて攻撃しよう。しばらくやっていたが、俺が一方的に勝つのはつまらない。俺も何かしらダメージをくらわないと・・・。そう思って、俺は手鏡を左手に持ち、その後ろに右手を隠した。左手で手鏡を上下左右に動かす。無防備な右手の掌は太陽光線を浴びてダメージを受ける。・・・すぐに飽きた。こんなバカバカしいことするならお父さんと一緒に昼寝をしていたほうがいい。決まりが悪いので、俺が負けたことにするため右手の掌に太陽光線を浴びた。俺の負けだ。

異変に気付いたのはそう思った矢先、まるで掌に太陽が引っ越してきたみたいだった。自分の方に掌を向けると光は消えた。同時に太陽に雲がかかり一瞬にして西側の部屋は暗くなった。掌を外に向けてみた。太陽が雲の間から顔を出した・・・。なぜかくしゃみが出た。帰ってきたお母さんにまた怒られた。

 理由はわからないが、俺一人のときにしかこの力は発揮されなかった。


 五月も終わりに差し掛かったある雨の日、俺は風邪をひいて学校を休んだ。季節はずれの風邪は嫌だ。ずる休みをしているんじゃないかと、クラスのみんなに疑われそうだからだ。この日、あることが明らかになった。この間見つけた不思議な力は太陽の出ている日にしか使えないということだ。残念だ、今日は朝から不思議な力を使えるせっかくのチャンスなのに・・・。なぜか俺が寝込む日は雨だった。運が悪いのか、俺に力を使わせないように誰かが仕組んでいるみたいだった。お母さんの目を盗んでテレビを見るしかなかった。もう眠れないというほど寝てしまって、目が冴えている。日本地図の前に立ったお姉さんが来週から梅雨入りだと告げた。トイレから戻ってきたお母さんに見つかった。また怒られた。


 俺は病弱だった、よく風邪をこじらせて病院に検査を受けにいった。どうやら今回の風邪はいつもと違うらしく、入院を余儀なくされた。両親と一緒に過ごせないのは淋しいし不安だ。病院のご飯はまずいとおじいちゃんがよく言っていた。でもこればっかりはしょうがない、おとなしくお父さんお母さん、はげ頭の医者の言うことを聞くしかない。俺は一人でも大丈夫、そういって病室を去る両親に手を振った。強い男なんだ・・・ただの強がりだけど。


 外はずっと雨だった。俺はせっかく一番窓に近いベッドにいたのに力を使えなかった。そういえば梅雨だ。お姉さんの顔を思い出したのと同時に、雨が続く理由がわかった。もう入院して5日目だった。毎日何かしらの検査を受け、お母さんは先生に呼ばれて結果を聞きに行った。戻ってくるたびにあの手鏡を使ってマスカラを付けなおしていた。

「もうすぐ誕生日だね」

お母さんが言った。リキヤに会ってから、プレゼントが何だったか言わないようにしている。


 7日目、やっと退院できた。太陽が今までの分のエネルギーを発散させるかのように燦燦と照っている。よかった、力が使える。水溜りを飛び越えながら、お母さんと家に向かった。途中、公園の前を通った。誰かがいる。太陽の光のせいで全体が白っぽく見え、そっちを直視できないが、いつものメンバーに違いない。

「おーいヨウキ、こっち来いよ。遊ぼうぜ」

リキヤの声だ。久々に聞いたから、いつもどんな声だったか忘れていたが、あの口調はリキヤだ。遊びたくないわけが無い。

「お昼には帰るから」

お母さんにそう言ってみんなの方へ走った。怒られまいと走って逃げた。お母さんは不安そうな顔をした。親心がわからなくも無い。今日は安静にさせておきたいのだろう。お母さんごめん。

リキヤは滑り台の上にいた、太陽の光でよく見えない。右手の甲を額にかざして日よけを作った。俺一人の時以外は効果がない。リキヤに不思議な力はばれなかった。

「俺、お父さんと川に遊びに行ったとき、すごく綺麗な石を見つけたんだ」

リキヤは見せてくれた。今度は石ころか、と思った。

「ヨウキも持ってるだろ」

「俺は持ってないよ」

「じゃあ探して来いよ、一個二個じゃダメだからな。いっぱい拾って来い」

右手を下ろすと、太陽は光を失った。

周りのヤツラは知らない顔だった。

石を積み上げる遊びをしている。

滑り台の上にリキヤはいなかった。

気付いた。俺は死んだんだ。お母さんに死んだらどうなるか聞いたのを思い出した。


 あの時右手をかざした時には、いつものような反射がなかった。周りに誰かがいるときでも、右手の掌を太陽に向けるとなぜかくしゃみが出た。入院してるうちに異変が見つかって手術されたのかと思ったが、そうではなかったらしい。神様は、俺が死ぬ前に不思議な力を与えて、楽しい想い出を作らせたんだ。そう思い込むことにした。

どのくらいここにいるのだろう。お母さんに聞いたままの世界で俺は生活していた。でも少し違うところがあった。周りの人間と話をしてもいいのだ。想像では、もっと厳しいところだと思っていた。みんな歳がばらばらだが、6月生まれだった。そしてみんな6歳の時に、それぞれ違った不思議な力を持ったらしい。

この世界にも雨は降る。そんなのお構い無しに俺たちは石を積み上げる。お母さんに怒られないように、いい子にすればよかったと今更ながら思う。でも、あの頃のあらゆることが俺の全てだった。

長い間雨が降った。テレビがないので梅雨かどうかはわからない。止んだのと同時に仲間が一人増えた。すぐに仲良くなった。1つ年下の6月生まれだ。

 なぜこの指だけこの位置なんだろう。なぜこの指だけ他の指と掌ですっぽり覆い隠せるのだろう・・・。


 僕は近くの中学に通う普通の生徒。学校の空気はとてもじゃないが良いとはいえない。教師は何をしてるんだ、こんなんでいいのかこの学校は。毎日そう思っている。制服はあってないようなもの。髪型だって生徒手帳の規定通りのやつなんて学年で1、2を争う地味なヤツだけ。風紀批判している僕も髪型にはこだわりがある。憧れのミュージシャンに似せている。それでもまだ僕なんて地味なほうだ。ピアス、タトゥーさえも最近みんなやりだした。憧れのミュージシャンは左耳に厳ついピアスと、右腕にいかしたドクロのタトゥーを入れている。でもそればかりは真似できない。僕は親にもらった体にキズをつけないと決心している。今の時代そんなの古風なのかもしれないが・・・。


 ヨシオは僕の幼馴染。幼稚園の頃から暇さえあれば一緒にいた仲だ。僕と大きく違うのは容姿。ヨシオは背が高く細長い。しかも厳ついピアスをしている。彼もまた僕と同じ憧れを抱いているのだ。

「お前も穴開けろよ、あっという間だぜ」

「いや僕は・・・」

「そうか、まあ好きにしろよ。それより、昨日の深夜番組でやってたんだけどさ」

彼は深夜番組をこよなく愛した。同い年とは思えない。まあ僕が古風なのか。

「爪の白い部分って何のためにあるか知ってるか」

「知らないなあ。いや、誰しも疑問に思ってることじゃないか」

「一回目のレム睡眠の時に数字が表示されるらしい。レム睡眠の間眼球はすごい勢いで動いていて、なんでも、そう動く時にその人が生きられる残りの日数か、月か、年か、詳しいことはわからないけど、それを調査して、利き手の親指の白い部分に黒い文字で結果報告をするらしいんだよ」

「ほお、いかにもウソっぽいな。僕はそんなオカルト信じない主義なんでね」

「お前らしい。あ、そういや俺近いうち左耳の軟骨に穴開けることにした。お前もやるか」

「遠慮する」


 ここ一週間ヨシオを見ていない。クラスは違うが、そもそも3クラスしかないので一週間もあればほぼ全員の顔を見る。ましてヨシオの頭1つ大きい容姿は廊下の端からでも発見できる。何をしているのだろうか。新しく開けた穴に悪性の菌でも入って入院でもしているのだろうか。心配になり帰りに寄ることにした。


 「なあ、これ見てくれよ」

ヨシオの部屋には町の小さな電気屋並みの家電が一通りある。

「あの日新しいピアスを買おうとネットで探してたら、不意にあの深夜番組を思い出したからいろいろ探したんだ」

どうやら寝ている間の親指の撮影の仕方を早速調べた人間がいるようだった。

「見ての通り俺は電化製品が好きでね、特にパソコン。今や一番仲のいい友達だ。そのページに書かれてるものは一通り揃っているから試したんだけど・・・」

ヨシオは録画した映像を映すため何本かのコードをテレビに繋いだ。

「・・・見ただろ」

「・・・うん」

「3・・・もう一週間だから三日じゃなかったみたいだ」

「じゃあ3ヶ月、3年。3週間ってのもある」

「もう学校に行くのがばかばかしくなってさ。親に頭痛だのなんだのってウソついては出かけたの見計らって好きなようにしてる。どうせ死ぬなら楽しく過ごしたいだろ」

ヨシオは母子家庭だ。すごく綺麗な母親で、道で会うたびにうらやましく思う。父親については何も聞いたことがない。家庭には家庭の事情があるのだ。

「お前もやってみないか」

「な、なんで」

「全部貸すからさ、必要な道具」

「僕はこういうの信じないからさ」

「相変わらず臆病だな。この際だから言うけど、お前がピアスの1つも開けないのはただの怖がりだからだってのが専らの噂だぜ。マザコンだって言う女子もいる。まあ幼馴染の俺が言うんだしこれは信じるだろ」

「・・・ああわかった、やってやるよ」

半ば自棄だった。決意するまで時間は要しなかった。知らぬ間にそんなレッテル貼られてるなんて腹立たしい。


 ヨシオに言われたとおりハンディカムをうまくセットし眠りについた。やる気になったのは、ヨシオほど家電に強いやつなら映像に修正を加えることなんて容易なことだと考えたというのもある。でも・・・。本当に数字が出たらどうしよう。なかなか寝付けなかった。こんなことで僕の一生が決まるものか。もし数字が出てもいつも通り学校に行って、昼休みにはみんなでサッカーをして、水曜8時のバラエティーは欠かさず見て・・・。


 朝が来た。土曜日、とてもいい天気だ。ヨシオの家で撮影した映像を見る約束だった。騙されているのかもしれないが、テレビに映すには特殊なコードが必要らしい。普段から家電に興味を持っておけばよかったと少し後悔する。

10時半。約束どおりヨシオの家に着いた。綺麗な女性に迎え入れられた。今日のヨシオは調子がいいらしい。当たり前だ。

「うまく撮れたか」

「うん、多分」

テープに細工されていないことは昨日散々言われたので疑っていなかった。もともとヨシオのことは疑っていないが。

「じゃあ早速」

右向きの三角ボタンを押した。見覚えのある掛け布団の模様。見覚えのある左手。僕は左利きなのだ。

まだこのくらいの時間は無駄なようで無駄でないことを色々考えていた時間だ。

10分後、スースーと寝息が聞こえた。

目を疑った。黒い文字がいつの間にか左手親指の白い部分に映し出された。

「お、おい」

「・・・」

血の気が引いた。

白い月型の部分には0。


 気付くと病院にいた。気絶している僕を姉が見つけて、慌てて救急車を呼んだそうだ。全く記憶が無いわけではない。キッチンで氷水を作り、例の指を冷やしているのを覚えている。ヨシオの家を逃げるように飛び出し、家路を疾走している間、僕は自分の指を自分のものでなくしたいと強く思った。ちょうど両親はその日まで外出中だったし、姉もあと1時間は帰ってこない予定だった。誰にもとめられることは無い。氷水で冷やして麻痺させる。手荒にピアスを開ける時に耳たぶを麻痺させるかのように・・・。

姉が着替えを取りに帰った後、ヨシオが見舞いに来た。

「お前が指をなくした分、俺は左手の親指にお前の指の形に似せたタトゥーを入れた。お前にこういうことをさせたのは俺のせいでもあるからな。なんとかしてお詫びをしたかったんだ。こんなんじゃお詫びにならないけど・・・」

うまく言えないようだ。それは僕も同じ、そんなことしたって何もならない。でもヨシオにはそう言えない。

「そういえば」

ヨシオが口を開いた。二人が沈黙した時間は短い。

「もう一度録画してみたんだ。馬鹿だよな俺。でもどうしてもお前の指と共に撮っておきたかったんだ」

墨を入れた日の夜、記念に撮ったそうだ。彼もまた左利きだった。

「それがさ、驚いたことに4だったんだ」

看護婦が入ってきた、面会時間の終わりを告げた。

「また来るよ」

「うん」


 4という数字。心当たりがあった。曖昧な記憶だが、ヨシオは軟骨に2つシルバーの小さなピアスをしていた。二人の憧れのミュージシャンのピアスを合わせると3つ。そしてお詫びのタトゥー・・・。彼の「キズ」はこの4つ。

考えたくなかった。僕の信条が僕をこんな目に遭わせるなんて。


 気分転換に院内を歩いた。ロビーを抜け、外に散歩に行こうと思った。病院の匂いはなぜか僕を絶望の淵に追いやる気がした。外の空気を吸いたくて仕方なかった。ロビーには大型のテレビがある。どうやら旅客機が墜落したらしい、慌しくキャスターが文章を読んでいる。きっと、心身共に僕よりひどい状況に陥っている人がたくさんいる。僕は指1本を失っただけだ・・・。

「・・さん、部屋に戻ってください。探したんですよ、検査の時間です」

看護婦に呼び止められて振り返った。

キャスターが両親の名前を読み上げた。