先生の話を聴き終えた、病院からの帰り道。二人の間に会話らしい会話は、ほとんど無かった。上手く思考が回らないまま、ただ茫然と通いなれた道程に車を走らせるだけがやっとの隆行。
お互いに掛ける言葉が見つからず、私も助手席に乗ってはいるものの黙る以外に出来ることがなく、静かにフロントガラスを見つめていた。
その分先生から告げられた言葉を、頭の中で何度も何度も反芻していた。今回の治療がミユには合わなかったこと。五年間体に負担をかけ続けてきた代償が、今になって顕著に現れてきたこと。私たちの気付かないところで、小さなミユはずっと悲鳴を上げ続けていたのだ。
私は毎日ミユの顔を見てきた筈なのに、今まで何と向き合っていたのだろう。辛いことから目を背け、ただミユの笑顔に逃げていただけだったんだろうか。
ごめんね、ミユ。ママ、気付いてあげられなくて。辛かったよね。恐かったよね。ごめんね。ごめんね。
お前のせいじゃないって。
でも
もし気付いたとして、俺たちにはどうすることも出来なかった。違うか?
…。
俺たちは医者じゃないし、先生だって神様じゃない。
うん…
だから、お前のせいじゃない。一人で抱え込むな。俺だってミユの父親だ。
うん……ごめん…
明日ミユに会うときは、笑顔のお前でいろよ。
ズズ、、うん。
もう、泣きすぎっ
ごめんなさい。。
家に着くと、いつもの泣き虫がまた隆行を待っていた。こんな私に、今日も優しい言葉をありがとう。隆行だって本当は心がぐちゃぐちゃになるくらい悲しかったのに、私がこんなんじゃ泣けないよね。
でもね、隆行。それでも私は、絶対気付くべきだった。母親として、気付かなければいけなかった。ミユの一番側にいて、ミユを一番見てるのは、先生でも神様でもない、母である私なんだから。
ミユの衰退具合から言っても、今年いっぱいもつかどうか。クリスマスを迎えるのも、微妙とのこと。毎年病室にやってくる、サンタクロースに変身した先生を三人で迎えるのが楽しみだった。
ミユのキラキラしたあの笑顔。幸せそうな声をあげて、サンタさんにお礼を言って。パパとママにもらったプレゼントを見せてくれて、少し自慢気なミユが可愛いんだよね。
ミユ…。ママ、ミユと離れたくないよ。ずっと一緒にいよう?その為だったら、ママ何でもするっ。神様、それじゃぁだめですか?
また つづく。