あれから、もう十年も経つのか
早いもので、あの禍々しい事件から今日で丁度十年の歳月が流れたことになる。この地に、事件の話をする者はもう誰もいない。決して忘れた訳ではないのだろうが、無かったことにしたいという思いが要因か。口に出す者は皆無だ。
事件が俺に残したもの、それは陰だった。一番慕っていた先生、頼りにしていたクラスメイト。たった一日で、一気に二人の人間を見失った。彼等に光が届くことはなくなり、暗闇に紛れてしまった。
あれから、人と関わるのを敬遠するようになった。上部だけの付き合いしか、受け付けられなくなってしまった。どんなに考えないようにしても、いつも頭から離れてはくれない。
そして、何故か事件の前の二人を良く思い出す。担任教師と学級委員だったので、二人でいる姿は見慣れていた。放課後、教室に二人だけで残っていても、誰も疑問に思う者はいなかった。
先生は委員長を信頼し、委員長も先生を尊敬していた。特に事件の直前は、一緒に過ごしている時間が多かった気がする。教室でも、職員室でも、廊下でも、見掛ける機会が多くなっていた。
先生と生徒の間柄で「仲良い」とは適切な表現ではないかもしれないが、本当の親子のように仲が良かった印象がある。
事件の日の二人が異様だったのか、それまでの日々が偽物だったのか。二人がこの世を去った今、確認する術は何一つない。そう、彼等は二人揃って獄中自殺を遂げていた。この事件は、永遠に解明されることなく迷宮入りとなったのだ。
事件の被害者である先生の子供は、先生とは血縁関係がないことが後に判明する。先生はこの事実を知っていたのだろうか。そして委員長の方も、養子縁組で今の家庭にやってきたことが分かった。委員長も、自分の境遇を知っていたのか。
これが事件に影響しているかどうかも定かではないのだが、俺はこれこそが動機だと睨んでいる。先生と委員長は共謀していたのではないか。先生の奥さんにとっては、耳を塞ぎたくなるような話ではあるが。委員長のご両親にとってはどうなのだろう。
あれから上手く笑えなくなった俺は、十年経った今も尚、答えのない調査を繰り返している。世間とは一線を引き、陰で生きている。光はここまでは届かない。あの日、教室に最後まで残っていたばっかりに、陰の世界を与えられた。俺も二人の後を追ってもう一つの世界へいこうか。そして二人にきいてみるんだ。あれは、なんだったのか。最後の質問を、二人にしてみよう。
「アンケート」編 完。