ねー、そういえばさぁ。これ、描いた人誰なのかな?
さぁ。
全国の高校生を対象にした企画だったんだから、当時高校生ってことで…今は35歳くらいってことだよね?まだ若いよね。他に作品ないのかな?
ないんじゃない。
そうだよねー。この名前も、他で聞いたことないしね。でも出版されてないだけで、絶対描いてると思うんだよね、この人。
なんでよ?
この明日美って人、小説描くの好きなんだと思う。
な、何でそんなこと分かるのよ?
だって文章が楽しそうだもん。
え…
文字が生き生きしてるし。グッと引き込まれるんだよね、この文章。
そんな…。あなたのがよっぽど上手いじゃない。
私のはただ上手くまとめてるだけ。それがちょっと今ブームになってるだけだよ。売れたのはたまたま。ってか、ほんと晃姉のおかげ。
私は何にもしてないわよ。
んーん、本当に感謝してるの。ほんとだよ。でもね、明日美さんのは私のとは全然違うの。文章が丁寧で、言葉の一つ一つが綺麗で。本当にすごい小説だよ。私には一生描けないんだろうな、こんな素敵な物語。
那美…
あ、でも夢は持たないとね。またまだ諦めてないよ。こう見えて、根性あるもん私。
うん、知ってる。
いつか私も、読んでくれた人の心を動かすような本を描きたい。これが私の夢。
カッコイイじゃん。
晃姉は?
へぇ?
ゆ・め。きいたことなかったよね、そういえば。晃姉の夢。
私?はー、特にないかな。
うそぉ。何がしたいとか、何になりたいとか、子供の頃とか思ったりしなかったの?
どうだったかなー。思ったこともあったような、なかったような。
なにそれ。いいじゃない、教えてよ。
晃子は小説家になるのが夢だった。
晃子の家には、本がたくさんあった。小さい頃から、それらの本を片っ端なら読んでいった。あっという間に読破した晃子は、誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントには、必ず本をリクエストするようにした。
それでも足りない分は、学校の図書館や街の図書館を利用した。本に囲まれた青春時代を過ごしたのであった。
那美は本好きの晃子の影響で、自身も読むようになる。いつも晃子の後ろにくっついていた那美は、もちろん図書館へも一緒に行く。晃子が本を選べば、那美も自分用に一冊用意し。晃子が本を読み始めると、那美も横に座って大人しく読む。
楽しかった。例え言葉は交わさなくとも、晃子と同じ机に並んで座る。同じ時間を過ごす。来るときや、帰り道では、お喋りしながら一緒に歩く。
それぞれ大きくなるにつれ、一緒にいられる時間も、幼い頃に比べれば大分少なくなった。そんな中この図書館での時間は、那美にとって晃子と一緒にいられる掛け替えのない時間なのであった。
また つづく。