おーい、明日は小奇麗な格好をしてこいよ。せめてジャケットぐらいな。」っと、

社長。


わかりました。」わたし。「じゃけっとかぁ、どこにしまったっけ。」と心の中で、
つぶやきます。

 
 いつもは現場で、黒いカラスのような格好をして、暗い中をゴキブリのように、
 手元明かりをたよりに、這いずり回って、作業をしているわたしには、
 大学から遠ざかって以来の、おめかし。
 久しぶりの色つきの世界です。

 まだバブルの臭いが色濃く残るころ、
 新進気鋭の社長は広告代理店から大きな仕事をはじめてもらい、
 無事に済んだご褒美にと、事もあろうに、
 私をそのレストランにつれていったのです。


ステラマリス

小田原の早川漁港近くにあるそのレストランまで、
社長が買ったばかりの「ポルシェ944」でひとっ走り。
そのお店で食べたお料理がはじめての本格的なフランス料理でした。

お魚をフランス料理の手法で、仕上げたものがメインだったことは覚えていますが、、、。
詳しい内容まではもう、記憶の遠くに、、、。
ただし私にとってそのおいしさが、一皿一皿が、衝撃的だったということです。

それ以来フランス料理といえば、
そのレストランのシェフだった吉野さんのことを思い浮かべてしまいます。

やがて私も駆け出しから、抜け出して、
そこそこの給料ももらえるようになり、
あちこちのレストランに行けるようになったころ、、。
吉野さんはステラマリスをたたんで、
フランスに行ったということを聞きました。

しかしながらそれ以上の
ニュースはありませんでした。

何年か経ち、パリにステラマリスというお店を
吉野さんが作ったということを漏れ聞いて、
とても嬉しく思ったものです、、、。

いつかは私もパリに行って、、、、。
吉野さんのお料理を食べたいって思っていました。

そのころは自分の仕事は、国内をずっと旅をする仕事が忙しく、
とてもとても、ヨーロッパに行くなんてことは
考えられませんでした。

時が経ち、会社も職も転じたとき、
ドイツに出張のチャンスがめぐってきました。
そのときはドイツのみの出張でした。
しかしおかげさまで
ドイツに沢山の友人が出来ました。

翌年初夏にプライベートで、ヨーロッパに行くことにし、
友人の家を訪ね歩き、ついでにパリまで足を伸ばそうということになり、
一番に思い出したのは、吉野さんのこと、、、、。

そして、ついにメールでステラマリスに予約を入れたのです。


ここで前編は終わりです。

続編、実際に吉野建さんのお店。
ステラマリスをたずねた時の、
お料理をご紹介いたしますね。

後編に続く。