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4:30起床。山の朝は寒い。カーテンを開けると、街はまだ真っ暗だが空気が澄んでいて、天気予報通り今日は好天の予感。のろのろと身支度をして、朝食。ここ数年、レース前の朝はいつも、前日に仕込んだ根菜のクリームシチューに山盛りごはん。これに切り餅ひとつとバナナ。ストレッチなどしながら、前日の冬季五輪の名場面を観つつ静かに気持ちを高める。

 

4年ぶり2度目の京都マラソン。昨年の入院から秋にレース復帰して大阪マラソンを走った後、年末に坐骨神経痛になって歩くこともままならず、年明けからは長引く風邪で熱と咳が意地悪して、ようやく京都に向けて練習再開できたのがひと月前。まともな走り込みもできないまま臨む本日のレース。坐骨神経の痛みは出なくなったとはいえ、レースペースで長い距離を走っていないので、本番中の再発だけが心配。

 

最寄駅から6時過ぎの電車に乗って出発。途中2度の乗り換えの度に、早朝の電車内にランナーらしき人たちの姿が続々と増えてくるいつもの感じだ。梅田発の臨時列車はランナーの通勤ラッシュのような状態で、満員すし詰めのままスタート会場のある西京極駅に7:30頃到着。競技場の更衣室周辺はもうごった返していて、通路にシートを広げるスペースもない。とは言えゼッケンを付けたウェアは既に着ているので、上着類を脱ぐだけの着替えを道路脇で手早く終えて、手荷物預けのトラックへ。係員の女子に荷物を渡すと、早朝からにっこり笑顔で感じが良い。

 

スタート1時間前。競技場内に入って軽くアップを始めたところで、本日のラン仲間から連絡が入る。ランナー入口のゲート前に集合し、記念撮影をして、お互いの健闘を祈りつつそれぞれのスタートブロックへ散る。競技場内は人が多すぎて走りにくいのでアップもそこそこに切り上げ、40分前にAブロックに入る。空を見上げると、やや薄曇りながらところどころ陽も刺している。場内アナウンスによると、現在の気温5.8度。この後は陽射しも強まり、気温の上昇が予想されるという。

 

αステーションDJ 谷口キヨピーのMCで開会式は進行。今日の目標は、秋の大阪マラソンのタイムを少しでも縮めて、あわよくばサブ3.5まで記録を戻しておきたいところ。さあ午前9時。号砲とともにレースはスタート。ゲートまでのタイムロスは40ほど。周囲の流れに乗って競技場から五条通に出る。前回のレースから、聴こえている方の片耳を塞いでしまうのはさすがに危険なので、BGMのイヤホンはなし。ランナーの息づかいと、ザッザッザッという足音だけが響く。入りの1kmは混雑で多少もたついたが、その後はすぐに立て直し、序盤の5km地点は設定よりやや速いペースで通過。

 

スタートして20分。桂川沿いのコースに出る頃には体感温度も上がり、7km付近の嵐山高架橋の手前で防寒用の簡易ポンチョを脱ぐ。青滝道から市街地へと大きく右折し、一条通に入るあたりから、前半戦の長い登りが始まる。左手に広がる広沢の池を通り過ぎ、小刻みなアップダウンを繰り返しながら高度を上げて行く。

 

設定ペースのまま10km地点を通過。京都マラソン名物、仁和寺の壮麗な門構えの前にさしかかる。恒例の、お坊さんたちによる読経の応援を受け、腹の中心にグッと力が入る。頭の上で拝むように手を合わせながら神妙な気持ちで走り抜ける。右に左にカーブを曲がり、龍安寺から金閣寺の脇を抜けて(お寺は全然見えないが)さらにアップダウンが続くきぬかけの路を踏ん張りながら進む。ここまでは何の問題もない。身体も軽く、脚もよく動いている。

 

13kmを過ぎて平野神社前の交差点を左に曲がり、広い西大路通に出たところで、遠くから聴き覚えのある大きな声がワーワー叫んでいる。道路の反対側の歩道に目を向けると、アライグマの被り物を着た後輩女子応援団の大声援。恥ずかしい。いや、ありがたい。ありがたいよ。手を挙げて応援に応えながら気合を入れてさらに進むと、徐々に道幅の狭い市街地に入る。17km過ぎの給水所で受け取った水を半分だけ飲んで走りながらゴミ箱に投げたら的を外し、係員のボランティアさんに残りの水が跳ねてしまって大反省。すいません、すいません。

 

市街地を抜けると、不意に鴨川沿いに出て大きく視界が開ける。一旦左岸を北上し、西賀茂橋で折り返して今度は右岸を南下。ここで20km通過。前半の登りを終え、ここからコースは徐々に下り基調。ここまでは設定を上回るペースで順調にラップを刻んできたが、さすがに脚の疲労を感じ始める。時計の予測ゴールタイムは、まだ3時間22分あたりを表示していて、サブ3.5が狙える圏内だ。10人ほどで形勢された集団の後方で、なんとか距離を離されないようにピッチを上げて付いて行く。 

 

鴨川沿いから左に大きく曲がり、北山通に入る。ここから修学院の折り返しまで東に向かって一直線。4年前に走った時には、この途中から通称「狐坂」の異常な激坂を登って宝ヶ池までを往復するという過酷なコースだったが、現在はコース変更されていてそれがないだけ随分負担が減っている。とはいえ、徐々に疲労は増してくる。修学院で折り返してまた戻ってきて北山通から今度は左折。 25km地点を通過。北大路通まで南下してまた折り返して戻ってくる。この折り返しが連続する距離合わせのようなコース設定が、後半にきてじわじわと体力と気力を蝕んでいく。

 

北山通から鴨川に戻る手前で、コースは府立植物園の中へ。木々が茂る並木の風景が爽やかで、苦しいながらも気分転換になる。園内をぐるりと回り出口に近付いたところで、舞妓はんがずらりと並んで手を振っていて、思わず心が和む。植物園内のコースは、癒しスポットでとてもいい。植物園を出てすぐに北山大橋を渡り、再び鴨川沿いに。 ここから約5km、鴨川河川敷を丸太町通までしばらく南下していく。 目印にしていた前の選手から、少しずつ離されている。ゴール予測タイムは、3時間25分あたりに落ちてきたが、まだ行ける。

 

河川敷に降りると、土の路面は思ったよりもしっかり土が固められていて走りやすい。道幅は狭いが、緩やかな下りの傾斜を活かして、スピードを上げる。上げる。上げ…あれ?上がらない。スピードも、脚も上がらない。30km手前で、突然、がくんときた。前半の登りとアップダウンで、脚を使い切ってしまったか。なんとか30km地点を越えた。給水所で立ち止まる。二度三度、屈伸。少し持ち直し、下りを利用してさらに河川敷をバタバタと進む。

 

丸太町通で舗装道路に上がり、今度は西に向かって京都御所南端の木々を右手に見ながら走る。烏丸通で折り返し、河原町通まで戻ってくると、右折して御池通まで南下。この途中で35km通過。よたよたと御池通に辿りついて、また折り返し、元来た道を再び丸太町通へ戻って右折して、鴨川沿いをまた北上して、、、っておい!折り返しばっかりやないかい!!!と文句を言ってもコースは変わらないので、苦痛をこらえながら百万遍の交差点を右折。ここにきてダメ押しのように緩やかな長い登りが続く辛い道。あまりの太腿の痛みに、また立ち止まる。そしてとうとう路肩に座り込む。目の前を他のランナーたちが次々に走り抜けて行く。時計を見ると、予測タイムは3時間半を越えた。

 

よろよろと立ち上がり、また走り出す。39km付近で、意識が途切れかけていたら、再び聞き覚えのある大声がどこかから聞こえる。出た〜。先回りしてくれていた後輩女子応援団が、反対車線の向こうから、まるで草野球の声援でかっとばせかっとばせと言わんばかりの大音量でハッパをかけてくる。うう…きつい。歩きたい。が、ここはサボれない。ありがとうありがとうと心で感謝しつつ、少しでもこの場から離れて見えない所まで行って座りたい。それほどきつい、この時間。

 

白川通まで行って折り返すと、ここからはゴールまでほぼ下り。傾斜のおかげで最後になって少しだけ脚が回り出し、40km地点通過。さほどスピードは出ていないが、それでも先ほどまでに較べれば着実に進んでいる。東大路通を一気に南下。あと2kmの表示。脚が痛い。爪先の感覚が無い。でも完走は目前だ。沿道に人が多くなってくる。前方を電話しながら走っている人がいる。何だ?元タイガースの桧山さんだ。何やってるんだ。抜くよ。抜きますよ。ラスト1km地点で桧山さんを抜く。しかし脚が痛い。太腿が攣りそうだ。ラスト500mほどで、またもや立ち止まる。屈伸。行くしかない。走り出す。平安神宮に向かう最後の側道に入る。カーブを曲がる。ゴールの鳥居が見えた。時計に眼をやる。まもなく3時間40分。動け、脚。ゴールゲートだ。ついにゴール。

 

着物姿で出迎えてくださった京都市長と握手。振り返ると、平安神宮。あぁ終わった。ほんまにキツかった。ネットタイムで 3:38:38。4年前に3時間10分台で走った時には、まさか将来こんなに低迷しているとは思いもしなかった。終盤の失速は覚悟の上だったが、ここまで脚に来るとは。気分的には大撃沈の感覚だったが、いやいや、そうでもないか。練習もロクに出来ず、身体のハンデも併せて考えれば、よく頑張ったのではないか。今回大目標のサブ3.5は無理だったが、それでも昨秋の大阪マラソンからさらに10分近くタイムを取り戻し、シーズンベスト更新だ。高望みしすぎだったが、リハビリシーズンとしては、着実に前進している。沿道の応援団に感謝。ネットで追跡の応援団にも感謝。神様ありがとう。<終>

 

 

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ゴールイン。 

 

 

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尋常でない達成感。

 

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尋常でない乾杯。

 

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尋常でない豚の天麩羅。

 

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尋常でない餃子。

 

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尋常でない天津飯。