午前4:30起床。スタート4時間前、前日に仕込んだジャガイモのシチューとお握りで、最後の炭水化物を詰め込む朝食。Tシャツにゼッケン、シューズに計測チップを付け、シンと冷え込む早朝の空気の中、着替えの入ったリュックを背負ってまだ真っ暗な道を駅に向かう。道中、大福餅を口に押し込みながら歩く。5時台の電車に乗り、梅田で阪急からJRに乗り換え。大阪駅環状線ホームは、すでに大阪城公園に向かうランナーたちでごった返す。レース2時間前の7時過ぎ、森ノ宮駅に到着。人の流れに沿って大阪城公園内へ。荷物預けのトラック付近で着替えながら、ギリギリまで蒸しパンを食べ、エナジージェルを流し込む。ボランティアのお兄さんに荷物を預け、公園内を20分以上歩いて移動し、スタート1時間前に最前列Aブロック付近へ。長い行列に並んでトイレを済ませ、軽いアップとストレッチ。40分前に、ブロックの中へ。隣でサブ3のペースを確認し合う人々。さすがに周りは速そうなランナーばかり。FM802DJ中島ヒロトさんのMCで、開会式が始まる。偉い人の長い挨拶がないのが素晴らしい。5分前、まずは車いすマラソンの選手がスタート。皆その場でジャンプしたり、太腿をパンパン叩いて集中力を高めている。気温17度。昨年より5度も低く、この季節にしては申し分ないコンディション。やがてカウントダウン。
9時ちょうど、号砲とともに左右のスタートゲートから勢いよく白煙が上がり、コブクロの大会テーマソング「42.195km」が大音量で流れる中、一斉にランナーが動き出す。ストップウォッチを押す。祭のはじまり。ランナーたちのカラフルなウェアに陽の光がキラキラ反射して美しい。馬場町のカーブを大きく左に曲がる。さすがに周囲のペースが速い。スタートしていきなりトップギアの感覚。いつもなら前方を塞ぐ遅いランナーたちをかわしながら、ジグザグに前方へと進むのだけれど、皆同じ程度のハイペースでうねるように集団が流れて行く。森ノ宮駅前を右折して玉造筋を南下。沿道の人の数が例年以上に多く感じる。しばらくして千日前通りを右折。ゆるやかな長い登り。そして長い下りを駆け下りる。谷町九丁目の交差点付近で、待っていた同僚が声をかけてくれる。休日の早朝からありがたい。
5km地点通過。時計をみてちょっと速すぎるなと思い若干ペースを抑えるものの、難波の交差点を右折して御堂筋に入ると再びテンションが上がってしまい、無意識にまたペースアップ。人波が沿道を埋め尽くす貸し切りの御堂筋逆走は、何度走っても感無量。あっという間に職場のある本町駅付近に差しかかる。職場向かいのコンビニ前で、側道のすぐ脇から会社の先輩の大きな声援。手を上げて応える。ありがたい。ここで、後ろからきたサブ3のペースランナーに追い越される。サブ3を上回るペースで走っていたのか。やがて淀屋橋の大交差点へ。カーブを曲がりながら一気に視界が開けた瞬間、沿道のギャラリーの多さがあり得ない風景で、自分はなんという場所にいるんだ、と思わず鳥肌が立つ。楽しい。最高だ。
10km通過。4:16/kmペース。給水と同時に最初のアミノバイタルを補給。予定よりペースが速すぎるが、呼吸はまったく乱れていないし、体感的にはさほど飛ばしている感覚がない。これはもう行けるところまで行ってみようと、この時点で腹を決める。土佐堀通りを進み、片町交差点で第1折り返し。去年はこのあたりで既に脚が重かったなと思いながら、今回は呆気ないほどの余裕でターン。反対車線から来る後続ランナーたちとすれ違いながら、しばらく知り合いの顔を探して走るが見当たらず。やがて北浜1丁目交差点を右折。難波橋を渡り、中之島の中央公会堂から市役所裏を通過。序盤のハイライトコースを満喫し、淀屋橋交差点に向かって左折。再び御堂筋へ飛び出す。強くなってきた陽射しを浴びながら、中央の車線を軽快に走る。逆方向から職場前を二度目の通過。ビルの真下付近から、後輩たちの声援が聴こえた。沿道まで距離があったが、ふたりの顔を確認。大きく手を振る。感謝、感謝。
15km通過。パワージェルを補給し、ひたすら御堂筋を南下。左側の車線は北上してくる後続ランナーたちで溢れている。道頓堀でグリコポーズ。難波交差点を右に曲がり、千日前通りの高架下を西へ。日陰に入ると一気に体感温度が下がり楽になる。スピードに乗ったまま、桜川を抜け大正橋を登り切ると、視界に京セラドームが飛び込んでくる。国道173号線の広い道路を、ゆるやかに下りながらドーム前を通過。そして千代崎橋西交差点で第2折り返し。再びドーム前まで今度は長い登り。陽射しが強く汗が流れるが、去年に比べればたいしたことはない。
20km通過。給水でアクエリアスを取り、さらに水を二つ取って両脚にかけ、頭から被る。去年のような脱水症状だけは避けたかったので、ここまですべての給水を取っている。さすがに脚は重くなってきたが、大きくペースが崩れる気配はまだない。まだ行ける。そして中間点通過。難波交差点を右折し、最後の御堂筋直線へ。視線の先に、高島屋。高島屋を左手にやり過ごしながら、25号線を南下。大黒交差点を左に折れると、ディープ大阪ゾーンの西成方面へ。通天閣の足元、恵比寿交差点で第3折り返し。
25km通過。街の風景が徐々に寂しくなってくるのと同時に、じわじわと脚にきているのを感じる。脚の疲労が辛くなったり、急にふっとマシになったりが交互に訪れる。でもまだ大丈夫。まだ行ける。この辺りから、前後20mくらいの中に自分を含めて8人ほどのゆるやかな集団ができ、つかず離れずの距離で一定のペースで進んで行く。陽射しがきつく、遮るものがない直線道路が続く。前を行くランナーの髪の先から汗の滴がしたたっている。
30km通過。時計をみると、想定よりもまだ4分以上の貯金がある。呼吸は乱れていない。脚の回転も同じピッチを刻んでいるが、心臓が苦しくなってきた。周囲のランナーたちはまだ一定の間隔でまとまっている。集団の空気がまるごと塊で流れているような、ずっとこのまま一緒に進んで行きたいような、妙な心地よさ。32km手前。人もまばらな沿道から、突然名前を呼ばれる。驚いて顔を上げると九州にいる元同期のスーパーアスリート。まったく、びっくりさせられる。その先にすぐ、大阪マラソン名物「まいどエイド」の長い給食テーブルの列が見えてくる。ここで、エイドに手を伸ばすランナーが列から離れ、集団が一気にバラバラになる。はなからエイドの給食は一度も摂るつもりがなかったので、横目で見ながら自分だけがポンと前に出てしまった。そんなつもりではなかったのにと若干動揺しつつも、脚を止めるわけにもいかずそのまま進む。暑い。心臓が締め付けられるように苦しい。長い南北道路がようやく終わり、住之江公園前交差点を右折。ニュートラムの高架下に入ると、いきなり強い突風に煽られてよろける。しかも日陰なので、急激に体感温度が下がって寒いほど。しかし先ほどまでの、照りつけられていた消耗感はかなり和らぎ、少々折れかけていた気持ちが再び息を吹き返す。
35km通過。まだ4分以上の貯金。ペースは落ちていない。残り7km。この状態であれば、おそらくもう大幅な落ち込みはないはず。もしかすると、3時間10分を切れるかもと初めて意識する。前を走っていたランナーたちが、あちこちで脚をひきずり、止まり始める。自分もかなり脚の疲労が溜まっている。給水のタイミングで、痙攣防止の漢方薬を投入。殺風景な高架下の道が続く中、切れ目ない沿道の応援に元気をもらいながら走る。長い住之江通を終えて右折。いよいよ南港大橋に向かって北上する。心臓が本当に苦しい。こんなペースで走ったことがないので当然だ。37kmのサインが見えた。その先に立ち上がる南港大橋。去年は完全に脚が止まってしまったが、まだ走れる。が、登りに差しかかるとさすがに大幅にスピードダウン。ここで、先ほど引き離した集団のランナー数人に追いつかれ、追い越される。上り坂、弱いなあ。しかし橋の上のスピーカーから降り注ぐコブクロの歌に励まされ、なんとか歩かずに登り切り、再び下りでスピードを上げる。橋を渡り切って右に曲がると、残り4kmのサインが見えてきた。時計を見る。キロ5分以内で行けば、ギリギリ3時間10分切れるか?心臓も脚も、そろそろ限界に近い。腰の捻転を意識してとにかく体を前に運ぶ。
40km通過。最後の給水を取っている時間はないので、パス。まだ脚は動く。ペースアップしようとするが、実際はほとんど速度変わらずキープするのがやっと。ここからがまだ長い。必死でストライドを伸ばす。意識ははっきりしているが、呼吸が苦しい。残り1kmのサイン。よし、3時間ヒト桁台、たぶん行ける。間に合え。あと曲がり角ふたつ。スパートする余力はもうない。最後のカーブ。曲がった。ゴール付近でゼッケンナンバーを読み上げるアナウンスの声が聴こえる。沿道の声援がひと際大きく感じる。フィニッシュゲートが見えた。SEIKOの電光計時が眼に入る。グロスで3時間10分に変わる瞬間。あと100m。ネットタイムならまだ間に合うはず。あと30m。両腕を上げる。そして、ゴール。
ゲートの脇で、さきほど会った元同期に再び遭遇。倒れこみたいのをこらえて記念撮影。いやー終わった。ランナーズアイで速報タイムを確認。本当にギリギリで、ネットタイム3:09:51。すっかり忘れていたが、エントリー時に申請した予想タイムは、3時間10分を1秒でも切れたらと、3:09:59だった。まさか本当に達成できるとは思いもしなかった。月間走行距離で200km以上走ったのは直前2カ月だけ。スピード練習ができたのは、直前1カ月だけ。レース前1週間の禁酒や、3日前からのカーボローディングはいつも通りだけど1カ月前には故障もしている。昨シーズン1年でたった1分しか短縮できなかったPBが、今シーズン初戦でなぜ5分も縮まったのかは、結局自分でもよくわからない。
しかし今回ひと際実感したのは、やはり応援のパワーは凄いなということ。先輩・後輩・友人がこんなに応援にきてくれたのは初めてで、とてもとても力になった。加えて、同じレースに一緒に出ている仲間たちとの関係ももちろん励みになったし、見ず知らずの沿道の人たちの声援も無茶苦茶力強くて、マラソンって一人きりの孤独なスポーツのようで実は多くの人たちの力で走らせてもらっているというのを、改めて感じた今年の大阪マラソンでした。それにしても、ここから先の「サブ3」は果てしなく遠いのであった。<終>