あの頃はああだった、と語り出すと、すべてが薄っぺらく感じてしまうことがある。
過ごした時間はとても濃く重みがあるのに、言葉にするとあっという間に終わってしまう。
どんなに語り手が情感を込めようと、たまにこの空虚さを感じてしまうと、言葉の力というものについて考えてしまうのだ。
言葉で分かり合えるはずなのに、人一人の思い全てを、喜怒哀楽で動いた魂を、伝えきることができない。
そのことがたまにもどかしくなる。どんな言葉でこの気持ちを表していいのか、適切な言葉が見つからないのと同じように。
でも伝えきれないことは百も承知で、だからこそ人は言葉を重ね続けていくのかもしれない。
一度だけでは伝わらないことも、重ねていくことで伝わる。
何度も言葉の形を変えて、言葉の質を上げていって、伝わる想いもきっとある。
そう信じて、最初の一歩を、最初の一言を、切り出していくのだろう。きっと。
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