最初に裏切ったのはどちらだったのだろう。
嘘が吐けない人が好きだと、牽制球を投げるように話した。
が、それは何も意味を持たず、無邪気に至近距離へ近づいてしまったせいで、
それはもう永遠に追いかけてはいけない想いになったと悟った。
出来るのならばこの世界から消してしまいたいと思った。そいつも、私自身も。
ただ、好きでいてくれるのならばいいやと、なし崩し的に付き合うことになった。
いつかおぞましい一日より一ミリでも好意が上回ればいいと思ったのか、
嘘が吐けない人のことを少しでも考えないようにと思ったのか、今となっては分からない。
ある意味私は裏切っていた。しかしそいつもある意味では既に裏切っていた。
それから二週間もしないうちに、そいつは過去から続いていた“日頃の行い”のお陰で職を追われた。
否定はされたが、過ごした時間で使われたものたちが信じられなくなった。
嘘が吐けない人に迷惑をかけたくなかったので、何も聞いていなかったことをありのまま伝え、
そいつとはそれ以上の付き合いをやめた。あっけなかったが、未練は無かった。
そこから私はあのものに関わる悪事というものを嫌悪し、憎悪すらするようになった。
今はその思いを無駄にしない仕事が出来ていて、とても嬉しい。
きっと私は、流星級の速さで“他に好きな人が出来たから”などと言われていたなら、
何の反論も無く分かった幸せになってくれとか言えただろう。好きになったならしょうがない。
それは私の価値観の中では裏切りにはカウントされないから。
ただ、あの“日頃の行い”だけは別である。出るところに出られてもおかしくなかったのである。
反省しているのかしていないのか、私にはよく分からなかったのが致命的だった。
傷心というか放心していたであろうそいつを、受け容れればまた話は違ったのだろうが、
私にはたとえ明日世界が終わると言われても無理な話だった。
きっとそいつにとっては、私が情け容赦なく離れたことこそ、冷徹な裏切りに見えたことだろう。
これが私の、人生初めてのまともなお付き合いというものにまつわる話である。
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