小学生の時、昼休みに学級文庫にあった『フランダースの犬』を何気なく手に取った。
物語に引き込まれ、5時間目の授業では涙を隠すのに必死だった。
ネロが見たかったあの絵を、いつかこの目で見たい。アントワープという街を歩いてみたい。そう思ってから、気がつけば五十年以上が過ぎていた。
ブリュッセル駅から一時間。列車は、宮殿のように重厚なアントワープ中央駅に滑り込む。
「世界で最も美しい駅」とも称されるだけあって、確かに見事な佇まいだ。
そして聖母大聖堂へ。この絵か!と思う。だが正直なところ、宗教画に馴染みのない自分には、その良さがよく分からない。
『フランダースの犬』はイギリスの作家による小説で、ベルギーではそれほど知られていないという。それでも、教会の前にはネロとパトラッシュの像があった。ただ、かなりモダンなオブジェで、「これじゃない」という感覚が強く残った。
別の日、ブルージュへ。ブルージュは「北のベネチア」「天井のない美術館」と呼ばれる街だ。松田聖子の「ブルージュの鐘」という曲の記憶もあり、期待は膨らんでいたのだが――
まずブリュッセルからの列車が混み合い、空席がなく一時間半立ちっぱなし。出だしからつまずいた。
運河はあるがベネチアほどではなく、迷い込むような迷宮でもない。
中世の街並みは美しく保存されているが、どこか整いすぎていて、朽ちていく美しさのようなものが感じられなかった。
ブルージュ(ゲルマン)対ベネチア(ラテン)。
個人的にはベネチアに軍配を上げたくなる。オーバーツーリズムでもう行くこともないだろうが。
帰国すると、東京は桜が満開だった。けれど提灯や「滞留禁止」の横断幕が視界に入り、その美しさに雑音が混じる。日本は、成熟しきらないまま枯れていくのか。









