Grief
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大切な人との時間の為に


子供の頃、サッカー選手になるのが夢だった。日本代表としてプレーするスター選手になりたかった。友達や家族と過ごす毎日が楽しくて楽しくてしょうがなかった。

ー今はどうだろうか。

俺は来月のこどもの日で30歳になる。子供からしたら30歳って立派な大人。けど自分が想像していた30歳とは程遠いくらい未熟者な自分に溜め息がでる。付き合ってる彼女にも「こどもの日が誕生日ってギャロらしいね。」と笑われているくらい。仕事は昨年秋の入院をきっかけに退社し、今年初めにも入院となり、なんだかんだまともに働けていない。退院してからようやく働ける体力も戻り、先週採用された会社で来月から勤務予定だ。

医者「摘出はしましたが…」

数日前の話だ。退院後の定期検診でガン研を訪れる。検査といっても採血だけなので、その為に1時間近く満員電車に揺られて向かうのが面倒だった。術後の体調も摘出したことで完治したかのように思えるほど、そのくらい体調は良かった。その病院には入院していたので慣れた足取りで採血受付へ行き、前日寝不足だったので診察までの小一時間うとうとしながら自分の番を待った。貸出されたピッチのような呼び出し機が振動を伴い音を鳴らす。音楽を停止し、眠たい目を擦り、あくびをした後にイヤホンを外しバッグにしまう。そして疲れた顔を隠すように一呼吸し、ノックをした。医者へ笑顔で挨拶をし、気分よく早く終わらせて貰えるよう心掛けた。しかし、そこで想定外の言葉を聞かされた。

医者「抗がん剤治療をしましょう。」

ハッとさせられた。

すっかり忘れてた…。
馬鹿だな俺…
ガンだったこと忘れてたとか…。

術後の経過があまりに良かった為か、このまま定期的に診察受けるくらいで済むだろうと思っていた。

無意識に頭の隅に追いやっていた「抗がん剤」という存在。頭が真っ白になり、何をどうすればいいのかわからなくなった。

医者「内科の担当医の予約取りますのでそこで診察受けて下さい。一緒に頑張りましょう。」

予想外の展開に動揺を隠すよう、落ち着いたやりとりをした後に病院を出た。しばらく歩いた物陰でタバコに手をやり火をつける。そしてアスファルトを何度も蹴りつけた。

正直、無知な俺は「抗がん剤」という言葉だけで大きな不安に襲われた。それと同時に少しの覚悟もしていなかった自分に対して強い苛立ちを覚えた。吸殻を灰皿に入れ、少し気持ちが落ち着いた所で親に報告した。受話器越しの母親も多少驚いた様子だったが、俺の事を気遣い「大丈夫。大丈夫。」と繰り返した。その母親の声に今にも泣き出しそうになり慌てて電話を切った。

ーこれが現実。紛れもない現実。

目を背けてはいけない。自分や誰を責めるでもなく全てを受け入れて、前向いて生きていくしかないんだ。例え涙を流してでも、大切な人との幸せな時間の為に。

一人じゃない、もう俺は独りじゃないんだから。