店員に、探していた本が無いと言われると同時に、どうも、とだけ呟く様に言ってから、
きびすをさっと返して、思わず走って店から逃げてしまった。
別に本が無かったから逃げたわけじゃない。
その前から早く店から逃げ出したかった。
本を探しているときに、学校の指定らしい体操着を来た人が見えた時から、早く店を出たかった。
いや、もしかしたらそれより前、店に入った瞬間に目に入った女子高生らしい制服姿の女の子を見たときからかもしれない。
ミュールで濡れそぼった店の前を走り、撥ねた水が足を濡らすのもどうでもよかった。
ただ、制服から逃げたかった。
私の通う高校は通信制の高校という、ちょっと珍しい高校。
知らない人のために簡単に説明すると、一般の高校より登校日が少ない高等学校のことで、
学校指定の勉強は主にレポートか、週何回かの『スクーリング』と呼ばれる登校日の授業ですることになっている。
大体は自主学習が主体、というスタイルをとっている学校で、あまり一般的ではない高校のスタイルだと思う。
夜間などの定時制とはまた少し違う。
こういう学校に来る人は、全日制の高校に色々な事情で通えない人が多い。
留年した人や、前の学校の環境が合わなくて転校して来た人、病気などで毎日通うのが困難な人など。
私は病気を理由に通信制高校に入ったのだけど、環境が良かったのか高校に入ってからは随分と良くなった。
中三の頃は、クラブを引退した後は殆ど学校にろくにこれなかった。
吹奏楽をきっかけに体の大部分を壊して、学校は週一行けばいい方、といういわゆる『ひきこもり』というもの。
私はあんまりこの呼び方が好きじゃないんだけど…
病気もあるけど、精神的にも参っていたみたいで、学校に行くのが辛かった。
受験勉強をしなくてはならないころに、死ぬかもだのと言われ、行けないかも知れない高校のために勉強など出来るはずも無く、
それでもなんとかやりすごし、何とかこの高校に入った。
そこしか受けていなかったので、もし落ちていたらと思うとそのときの自分がよく判らないけれど、
受かったことも特に嬉しくなかった。ただ母に「私が高校に受かってよかったね」としか言えなかった。
後で聞くと、叔母に「そんな高校に行くだなんて許すのか」と言われていたらしい。
それには結構堪えた。母も誰かに「通信制だけど、一応受かりました」と言っていたし。
母は悪い人じゃないのだけど。
色んなことが重なって、通信高の生徒だということに、なんとなく自信が持てなくなっていった。
それ以来、女子高生に限らず、学生が苦手になった。
外で見かけると、目を背けたくなる。もしすれ違いそうになったら、逃げる。
そういう風になった。制服が怖かった。
私の高校にも制服はある。強制じゃないけれど、私はどうしても欲しかったから、
母に無理を言って一着だけ買ってもらった。リボンが可愛い制服。
中学ではポロシャツだったので、Yシャツが嬉しかった。
だけど、制服を自分が着ていてもなんとなく逃げたくなる。
制服じゃないときはもっと逃げたくなる。
強い劣等感がある。
そんな自分が情けなくて、でもどうしても逃げずに居られない。
スクーリングの無い日に、外を出歩けない。
平日から何をしているんだという、世間の目が辛いから、買い物に行くのも辛い。
夏休み中は日の下を沢山出歩けて楽しかったけど、もう世間の夏休みは終わってしまった。
うちの高校はまだずっと後になってからしか学校は始まらない。十月半ばまで。
辛いけど、この辺りで大丈夫にならないと。
いつか胸を張って、逃げないで居られるようになりたい。