著:田中雅美 コバルト文庫
田中雅美さんは、コバルトでは、超人気作
には、恵まれなかったと思いますが、ライトミ
ステリーから、学園コメディまで、無難に気楽
に読める作品を描いていた記憶があります。
コバルト以外でも、確か、ライトミステリーで、
うち的には、楽しめた作品がありました。
その中で異色作でしょうか。
あとがきの「私の高校時代」によると、油絵も描
けて、(デビュー前かな?)、昼は表題作等の明る
い学園生活を送り、夜には、この作品のような小
説を描いていたそうです。
楽しい学園生活でも、なんか不満があって、リラ
ンダンのような陰惨な殺人劇を描くのが、心の健
康法だったらしいです^^。分かる気もしますが、そ
れで、小説を描けてしまうことが、凄いですよね^^。
吉屋信子さん時代の”エス”とかいう、百合の世
界の少女小説のようなタッチですが、あとがき曰く、
ヴィリエ・ド・リランダン風みたいです。
”エス”と言っても、今は、わかる人、あんましい
なさそーやけど^^;(と、いううちも、あんましなじみ
ありませんが)。
注)ストーリーはネタばれ
明るい性格で友達も多く、成績優秀で、、なんら
問題のなさそうな主人公・高垣聡子が、いきなし、自
殺しているのが、発見されたところから始まります。
主人公の日記には、「これ以後の人生で私を魅す
るものはありません」と記されていた。
後は、主人公が自殺するまでの日記が物語りに
なります。
主人公は、孤高の麗人・松宮玲子に、一方的に尊
敬というか崇拝の念を抱く。それは、恋愛感情なんや
ろうけど、少し違って、ある意味”神”のように超越した
存在?なのかな・・・。ま、そんな感じで描かれてます。
そんな中、友人から、優しくしてやってと、せがまれ
田口紘子というレズな女の子と付き合うことになるけど、
本人は、全く恋人になるつもりはない。
なんやかやで、勝手に”神”扱いにしていた玲子の人
間臭さを、見たくないけど見てしまって、幻滅し始めた
頃に、玲子が電車の脱線事故で亡くなってしまう。
そして、冒頭の「人生に~魅するものが~」になります。
タイトルの「傷」は、ラストの自殺する前に、嫉妬に狂っ
た紘子にナイフで傷つけられたものです。
「・・・・・あたしを踏み躙って!選びすぎたのよ。あんたは!」
なるほど、大人にならないことを選んだ私は、人生の生
を飾るために必死にあらゆるものを選び、あるいは捨てて
いったのでしょう。
今後、松宮さん以上の人が私の前に現れるのは絶望的で
す。例えば、天使のような美少女が私の前にたっても、そ
の時、私が、80歳の老婆だったら?
松宮さんへの失望は(中略)、早く自分の年齢をかぎって
しまわねばなりません。
パパ、ママ、お兄さん、お姉さん、さようなら。今まで、みん
なと暮らせて楽しかった。
旧時代の少女小説のような、雰囲気も良いですけど、
思春期の少女の不思議な精神を描いた作品としても、
良い作品やと、思います。
「ホットドッグ・ドリーム」 コバルト文庫
昭和55年11月15日第1刷発行に収録