「触発」(前編) | 雪うさぎ

雪うさぎ

 子供のときから、作文とか読書感想文は苦手で^^。
 つたないながらも、少女漫画と少女小説の紹介をして
いきます。

*ゲームルール、舞台設定・キャラ設定に関しては、

10月29日の記事「乙女に映しておぼろげに」を参照。

 後は、ラブクラフト原案の怪奇小説「クトゥルー神話」

を参照です^^。



1.いざ、開拓指導へ!

 ハイパーボレアは北極付近にある大陸・・・大陸と呼ぶには
語弊があるかもしれない小さい大陸・・・で、首都は南東部の
ウズルダロウムという街である。
 元々は大陸の中心部にあるコモリオムだったのだが、数十
年前に原因不明の大災害に合い、壊滅してしまった。
 大陸北部では氷河期のきざしが見えるものの、街は栄え美
しく、ハイパーボレアの住人達は豊かな文明の恩恵を授かって
いる。
 そして、新首都ウズルダロウム付近に住む、冒険者と言う名
の”ごくつぶし”達も例外なく一日を平和に暮らしていた。

 リーヴィが家業の農家を継がず冒険者になってから1年半後、
彼は首都付近の酒場で暇をもてあましていた。
 冒険者になってから、それなりに危険な依頼もこなし、仲間も
出来た。が、この豊かな文明の世界で頻繁に危険な仕事があ
るはずもなく、明日は明日の風が吹くという不安定な生活を送
っている。

 ネスとシンシアはポーカーゲームに興じているし、トリシアは
あろうことか”処刑執行用”のハンドアックス~彼女はハンド・ギ
ロチンと呼んでいる~を愛しそうに磨いている。目が危ない。
「あれ?そういえばリジーは?」
とリーヴィは誰ともなしに聞いた。いつもなら、「禊を行なわけれ
ば!」と言いつつ「大地の恵み」と称したエールを昼間から飲んで
いるはずだ。
「リズなら呼び出されてツァトゥグア神殿に行ったよ」
と”ハンドギロチン”から目を離さずにトリシアが応える。
 ツァトゥグア神は旧支配者の一人で、太古に土星と呼ばれる星か
ら飛来して、今は北にあるヴーアミタドレス山の地下に棲んでいる
らしい。
 大鹿の女神イホウンデー信仰の影で異端の邪教崇拝として弾
圧されてきたツァトゥグア信仰であったが、何故か近年は日の目
をみて、勢力を拡大しつつある信仰である。
 リジーはその信仰の神官である。
「呼び出し?何で?」
「さあ、信者じゃないし、そこまでは知らない」
「ふうん。」
 とうなづきつつリーヴィはリジー初めて会った日のことを思い出し
ていた。リジーの本名はエリザベスだが、初対面でいきなりリジー
かリズと呼びなさい、と”命令”され、本名やエリザやべスと呼ぶと
怒る。何故だかは知らないけど。

 ”噂をすれば影”の諺通り、そこへリジーが帰ってきた。
「マスター、大地の恵みね。」
 旋風の如く席につき、やっぱり大地の恵みを注文してから
「みなさん!お喜び下さい!お仕事です。」
と言う。大地の恵みで通じるマスターもどうかと思うが・・・。
「おお~!」と異口同音でパーティ一向が声をあげた。
「で、その仕事の報酬は?」
 こう聞いたのは当然、お金に五月蝿いシンシアだ。
「報酬額の前に、内容を聞けないものかね・・・」
とネスがぼやく。
「報酬はですね。一人200Gです!」
かなりの大金だ。食べるだけなら10Gで一週間暮らせる。
「で、内容と依頼主は?」
 なんだか胡散臭いと言う表情でネスがせかす。
「あ!。あなた今、胡散臭いと思いましたね?いやならいいのです。
私が400G貰いますから!」
「そ、そ、そんなことは言ってないじゃないか!それに一人200Gな
のに、なんで400G貰えるんだよ」
「傀儡を使って、ネスも行ったことにすれば良いのです。」
 平然と言うリズ。
 初対面で命令されて以来、未だにリジーの性格が分からないリー
ヴィであったが、ため息をつきつつ
「で、内容と依頼主は?」
と先刻のネスと同じ言葉を口にした。

 リズの話によると、
依頼主はツァトゥグア神殿。内容は・・・・
 勢力は拡大しつつあるものの、まだ布教活動が足りないと言うわ

けで、人口が増加しつつある地方の村の開墾の手伝いをし、信者

を増やす手段をとっているそうだ。勿論、お布施は出来高払いでで

きあがった農作物から頂くので一石二鳥と言うわけである。
 今回の依頼はウグトゥアと言うここから歩いて3日の所にある村の

水田開発計画を指揮するものらしい。

「開墾・・・・・・・?・・・あたし達は冒険者だよ・・・」
 呆然とトリシアが呟く。
「いいじゃないですか?そのハンドギロチンは何のためにあるので

すか?!」
「え?これ?首を狩るためだけど・・・?」
「違います。森を切り開き、田畑を開墾するためにあるのです。」
「それ、違うと思うけど・・・」
ネスが呟くが「何かいいましたか?」とリジーに睨まれ

「何でもありません。」
と黙ってしまった。何故か敬語だ。
「まあ、良いではありませんか。こうして暇してても仕方ありませんし、

背に腹はかえられません。・・・・・・・・・それに200G貰えるなら文句

はありません。」
とシンシアが言い、全員1も2もなくうなずいた。
 無論、リーヴィにも異論はない。
「では、早速参りましょうか!」
マスターが持ってきた”大地の恵み”を飲み干し、リジーが腰をあげた。
「え?もう?」
リーヴィが聞き返す。
「据え膳は急げ!ですわ。」
とにっこりと微笑まれ「それも違うような気が・・・・」とため息をつくリーヴ

ィであった。
 こうして開墾に出発したリーヴィたち・・・ただの開拓作業になるはず

だったのだが・・・。


2.異端者

「閉鎖的な村の典型ですね・・。」
 シンシアの言葉通り、北にミタドレス山脈、南にツコ・ヴルパニミ
から連なる山間にウグトゥアの村はあった。
 出発してから3日後の夕方、一行は村が見渡せる東の小高い丘
まで来ていた。
「うーん。でも、平地が少ないですね。そうです!ここを段々畑にし
 ましょう!」
 リジーは田園開発にかなりの情熱を傾けているようであった。
「・・・・それは良いけど、とりあえず村長宅に挨拶に行こう」
「あの・・この中で一番立派そうな家かな?」
 リーヴィが促し、ネスが目星を決めて丘から村内に歩きはじめた。
「ねえ、あれって神殿じゃない?」
 途中、トリシアが気づき、指さした先に確かに神殿らしき建物が
あった。辺境の村と言っても、結構大規模な村なので神殿があって
もおかしくないが、開拓は建前で、実際には布教活動が任務の一
行にとっては、かんばしくない状況である。
「イホウンデー神殿なら異端狩をしなければなりませんね~。トリシ
 アさん殺っておしまいなさーい。」
にこにこしながら怖いことを言うリズ。最近まではツァトゥグア信者が
邪教崇拝者としての汚名を背負っていたのだが。信仰心の無いリ
ーヴィには分からないが、そういった過去がある分、宗教対立は根
深いのかもしれない。
「なんで、あたしが・・・ま、首が狩れるなら文句はないけど」
「そういえば・・・」
 何かを思いついたのかシンシアが口をあけた。
「第2条:処刑執行人は神官の判断により、犯人を処罰できる。場
 合によっては処刑することも許される・・・・即ち合法的に首がおと
 せるわね」
 こちらもにこにこしながら言う。
 実は、神官には裁判官代理人としての権限が与えられていて、処
刑執行人がいれば、即決裁判の後に異端者を処刑できるのだ。
「ま・・まあ、その辺はおいておいて、村長宅に急ごう。」
 変な方向に話がいきつつあるので、冷や汗をかきつつ、再びリー
ヴィが促す。互いが相手を異端としているのだから良く今まで、宗教
戦争にならなかったなと思いつつ。
 気になったのは、田畑で農作業している人の少なさだ。多分、労
働人口の1/4程度しかいないと思われた。農村なので、残り3/4が
狩りに出かけているとも思えない。
雪うさぎ

 目星通り、一番立派な建物が村長宅であった。
「これはこれは良くぞ、来て下された。何でも農作業の手伝いをして
 いただけるそうで。実は人手不足でして・・」
「いや、手伝いではなく、開拓に・・・」
 リーヴィの実家は農家なので、出来ないこともないが、依頼で農作
業するなら実家で農民やってるのと代わりが無い。
「そうですね~。農作業のしがいがありそうな荒れ果てた大地です。」
 リズはかなり嬉しそうだが、一番現実的で知的なネスが疑問を口に
した。
「そういえば、夕方だからかもしれないけど、農作業に出ている人が

少ない気がしたのですが?」
「ああ。それは、今日が礼拝日だったからですよ。数年前から若い神
 官の方がかなり熱心に布教活動をしておいでです。確か、ツァトゥ

グア信仰とか言う新しい信仰とかで・・・」
「え?じゃあ、あれはツァトゥグア神殿だったのですか?明日、早速

挨拶にいかねば!」
 目を輝かせるリズ。
「この依頼を受けた時に聞いてないの?」
 とはトリシア。当然の疑問だ。
「ぜーんぜん。」
「それはおかしいわね。まさかまだツァトゥグア信仰が日の目を見た

ことを知らない隠れツァトゥグア・・・。」
 シンシアが腕を組みながら言った。隠れツァトゥグアって何だ?。
「それ以前に・・・ツァトゥグアが公認の信仰になったのって、つい最

近だよ。こんな辺境・・失礼・・の村にあんな立派な神殿があって、

公に布教活動していたこと事体おかしくはない?」
 ネスが理知的に疑問を口にする。
「あなた・・・・」
「な、なんだよ?」
 じいっとリズに見つめられひるむネス。
「さては、隠れイホウンデーですね?!異端信仰の罪で処刑します!
 さあ、トリシアさん出番ですよ!」
 隠れイホウンデーも何だ?お互いにそう呼び合っているのだろう

か・・・。
「うあー!やめてくれ。単に不思議に思ったことを言ってみただけじ

ゃないか!」
 傍から見てると漫才にしか見えないやりとりをネスとリズがやり

はじめた所に15、6歳位の娘がお茶をもってきた。結構、美形な

方だ。
「あ、娘のヴァリスです。」
 少し唖然としてた村長が~それはそうだろう~、気をとりなおして

紹介した。

 翌日、リズの提案で田園開発の前に神殿に挨拶に行くことにな

った。出てきたのは、村長の言う通り20代前半の若い男の神官

であった。
「良くぞいらした。私はイプシロンといいます。おや?そちらの方は

同じ、ツァトゥグアの神官ですね?」
 まさに”さわやか~”を絵に描いたような男だった。同性の性か、

こういうタイプには警戒心を抱いてしまうリーヴィであった。
 ネスもトリシアも、表情から同じことを思ってらしく、あながちリー

ヴィの第六感も間違ってはいないようだが・・・・リズ以外は。
「はい~。中央から参りました。エリザベスです。リズかリジーと

呼んで下さい。」

 中に入ると朝から結構な人数の信者が何かをお祈りしている。

農作業もしないでここに来ているのだから、かなりの盲信者だと

は思う。ただ不気味なことに今までリーヴィが見たことのある熱

狂的な信仰者とは違い、どことなく目がうつろ・・・というか目の焦

点があっていない。
 祭壇の奥にある壁画はツァトゥグア神の姿が描かれていた。
「おお。何という神々しい雄姿なのでしょう。」
 リズは感嘆の声をあげているが、リーヴィにはこの感覚が良く分

からない。何しろ、体毛が生えた巨大蝦蟇蛙に蝙蝠の耳と口があ

るのがツァトゥグア神だ。どうみても化け物にしか見えない。
 神官は、ツァトゥグア神やツァトゥグアの落とし子との接触や、

時には召還を試みることもできるらしいから、リズもその気になれ

ば出来るのであろう。できるなら、その場に居合わせたくない・・・

と思うリーヴィであった。普通の人間だったら、その姿を見ただけ

で発狂してしまう。
 しかも、信仰には生贄が必要だ。女神イホウンデーでさえ、豊作

祈願のおりには、数人の村人を贄として差し出していた。リズなら、

神との接触のおりに仲間であろうが、その代償として差し出しかね

ない・・・・。
「でしょう?ここ数ヶ月で信者も100人を超えるようになりました」
「それは凄いですね!」
「そろそろ礼拝の儀をはじめますので、皆さんもよろしければ参加

していって下さい。」

 リーヴィたちを振り向き、にっこり笑うとイプシロンは祭壇の前に

立ち、”礼拝の儀”とやらを始めた。
 気がつくと、本当に100人はいるであろうかと思われる村人がど

こからともなく集まっていた。リーヴィたちは、脇にどき、その様子

を眺めることになった。
 ガルドル(呪歌)としか思えないような、ツァトゥグア神を讃える歌

の斉唱になると~リズは当然の如く熱唱しているが~それ以上に

村人たちは凄く、もはやトランス状態に入っているとしか思えない

ような者も半数位見受けられる。
「なんかおかしいわね。」
 壁に寄りかかり、腕を組みながら眺めていたトリシアがつぶやき、

ネスがあいづちをうつ。
「僕もそう思う。新興宗教にしては熱心すぎる信者が多い気がする」
「それはですね。ツァトゥグアさまが偉大だからですよ。」
 にこにこと言ったのは勿論リズである。


つづく・・・