夫さんと夫さんの義妹さんがさんに会いに来た。
さんとさんは大変仲が良かったそうだ。
さん、入所から一カ月半、なんとかお薬も調整でき、施設での共同生活がどうにかできる状態になってきたところ。
我々は四六時中一緒にいていろんな状態のさんを見ているし、これでもプロなのでなんとなくさんが感じていること、伝えたいことは汲みとれるようになっている。
さんは言葉や状況を理解する能力はかなり残っている。一方で言葉で自分の感じていることを伝える能力は弱っている。
認知症のせいで言葉で「嫌だ」「辛い」が伝えられないから表現方法が暴力になる。そこを抑えるために薬を服用しているのでなおさら感じていることが表に出てきにくい。
つまり、何が言いたいのか。
さんは言われていることや状況をよく理解しているのに理解できていないように見えるのだ。
わかっているのに、わかってないように見えてしまう。
夫さんとさんに会うために出てきたさんを見て2人は口々に
「分かる?よ!よく一緒におしゃべりしてた!」
夫「かぁさん、さんよ!会いに来てくれたで!さん!!わかる??」
さんは小さな声でボソッと
「わかるよ。」
その大切な一言が小さすぎて聞こえなかったのか、2人は、なおも帽子を脱いでみたり顔を近づけてみたりしながら「分かる?」を連呼していた。
見兼ねて
「ちゃんとわかってますよ!大丈夫です!!」
と口を出してしまった
すると今度は夫さんとさんは
夫「これ、薬合ってますか?目とかドヨーンってなってますよ。家に居たころはもっと目がキラキラしてたのに、、、」
「そうねぇ、なんか表情も暗い感じがするね、、、」
などと言いながらさんの手を握ろうとした。
そのとき、、、さんは伸ばしてきた2人の手をパチーンと叩き飛ばしてしまった
そして、すっくと立ち上がり小さな声で
「ーーーー」
と言って室内に戻ってしまった。
夫「やっぱりまだ、ああやって暴力が出るんですかね」
「帰っちゃう直前に何か言いましたよね?なんて言ったかわかりましたか?」
さんは
「そんなに言うなら、もう帰る」
とおっしゃったのだ。
夫さんが言った言葉、さんが言った言葉
どちらも見た通り、感じた通りのことをそのまま言ってしまっただけ。
でも、普通の生活の中でだったら絶対に本人を目の前にしてその言葉は出さないのではないだろうか。
「わかってない」みたいに見えてしまうから。
それは仕方ないことなのかもしれないけれど、、、
大好きな、そして信頼している旦那さんとさんからその言葉をかけられてしまったさんは、、、きっととても悲しかったんだと思う。
さんが室内に戻った後、お二人にそのことを説明させてもらった。
しょんぼりして、出直してきますという2人。
ふっと見ると、2人が見える窓のところにさんが立ってこちらを見ている。
オツベル「さん、おとうさんとさん、今日はもう帰るんだって。またさんに会いに来たいって。
おとうさんはさんが家に居なくて寂しいって言ってるし。また会いに来てもらってもいい??」
「、、、会いに来たけりゃ来ればいい。」
オツベル「また会いに来てねっておっしゃってますよ〜」
さんは2人に手を振って室内に戻っていった。
わかっているのにわかってないように見えるっていうのは本当に辛い話だ。