言わずもがなの大御所、アメリカン・ミュージックの求道者と言えるライ・クーダー(Ry Cooder)、1947年3月生まれの75歳、そして、ルーツミュージックの体現者、タジ・マハール(Taj Mahal)、間もなく80歳、こんな二人の再会により出来上がった”必聴”のアルバムがリリースされました。
1964年に出会い、あのライジング・サンズ(The Rising Sons)を結成して以来ほぼ60年振りに実現したフル・アルバムを正座して聴く毎日を過ごしております(笑)。
今回のアルバムについて、ライ本人曰く、「偉大な彼らの音楽をコピーすることなんて誰にも出来やしない、絶対に無理! だから、自分のベストを尽くして、いい音を出して、ハッピーな時間を過ごせばいいんだ。」と。
偉大な彼らとは、サニー・テリー&ブラウニー・マギー(Sonny Terry and Brownie McGhee)のことです。 フォーク・ブルース/ピードモント・ブルース(Folk blues / Piedmont blues )の先駆者であり、レジェンドと言えるデュオです。 そんな彼らの音楽に対する深い愛情と敬意を表した作品が、全11曲を収録した『Get On Board: The Songs of Sonny Terry & Brownie McGhee』になります。
私にとって、ブルーズの世界においてギターとハープのコンビと言えば、バディ・ガイ(Buddy Guy)とジュニア・ウェルズ(Junior Wells)のコンビが真っ先に浮かびます。 正直言って、そのコンビの先駆者とも言える、サニー・テリー&ブラウニー・マギーを聴きこんだことはありません。
サニー・テリーは1911年10月生まれで、不慮の事故により盲目となり生計を立てるためにハーピストの道を選びました。 同じく盲目のギタリスト、ブラインド・ボーイ・フラー(Blind Boy Fuller)との運命的な出会いから、ピードモント・ブルースの世界で名前を知られる存在となります。 その後、フラーが亡くなった後には、彼の弟子的な存在であった1915年11月生まれのブラウニー・マギーとコンビを組んで活動を続けて行きました。
ブラウニー・マッギーが最初に所属したレーベルは、あの伝説のオーケー・レコーズ(Okeh Records)でした。 彼らの名前を広く知らしめたのは、1942年にニューヨークに移住し、ピート・シーガー(Pete Seeger)やウディ・ガスリー(Woodrow Wilson "Woody" Guthrie)などと交流しながら、フォークとイースト・コースト・ブルースを融合した斬新なフォーク・ブルースを完成させてからです。 それ以降、60年代のブルーズ・リヴァイヴァルのブームに乗り人気を博して行き、1980年辺りまで40年近く活動を続けて行ったのです。 一部のコアなブルーズファンからは、スリルやアクに欠けていると敬遠されることも多いそうですが、彼らの独特なハモリや絡み、そして驚異的なリズム感は唯一無二の存在だと思います。
二人はピードモント・ブルースの第一人者として世界中をツアーして廻り、来日もしています。 ただ、日本では1978年にライトニン・ホプキンスと一緒に来日してライヴを行っていますが、ライトニンの強烈な個性の前では殆ど話題にはなることはなかったと言われています。
なお、ライ・クーダーは86年公開のウォルター・ヒル(Walter Hill)監督のブルーズを題材にしたロード・ムーヴィー、『Crossroads』のサウンドトラック制作時に、サニー・テリーと共演しています。 収録されている楽曲は”Walkin' Away Blues”です。
ところで、ライ・クーダーとタジ・マハールとの出会いは1965年まで遡り、当時17歳だったライと23歳のタジ・マハールはザ・ライジング・サンズ(The Rising Sons)を結成し、コロンビア・レコードとの契約を手にしますが、制作したアルバムはリリースされることなく、1年後にバンドは解散してしまいます。その後、ライはタジ・マハールのソロアルバム、68年リリースの『Taj Mahal』に参加しています。 当時のバック・バンドにはジェシ・エド・デイヴィス(Jesse Ed Davis)がリード・ギタリストとしていましたから、ライの出番はさほどありませんでした。 その時以来の共演になるわけで、かれこれ50数年の歳月が流れているのですが、今回のレコーディングを聴けばそんなブランクはあってないようなものと言えます。
今回のアルバムでは、彼らが残した膨大な楽曲群の中から代表曲だったり、カヴァーした楽曲を11曲ほど選んでレコーディングしています。 ライクーダーとタジ・マハールの二人に加えて、ライの息子であるヨアキム・クーダー(Joachim Cooder )がベースとドラムスで参加しています。
□ Tracking List *****;
1.My Baby Done Changed the Lock on the Door Public Domain / William Weldon 04:15
2.The Midnight Special Brownie McGhee / Sonny Terry 03:26
3.Hooray Hooray Leroy Kirkland / Sonny Terry 04:19
4.Deep Sea Diver Brownie McGhee 05:17
5.Pick a Bale of Cotton Brownie McGhee / Sonny Terry 03:02
6.Drinkin’ Wine Spo-Dee-O-Dee Sticks McGhee / J. Mayo Williams 03:15
7.What a Beautiful City Traditional 04:11
8.Pawn Shop Blues Public Domain / Blind Boy Fuller 05:51
9.Cornbread, Peas, Black Molasses Brownie McGhee / Sonny Terry 03:43
10.Packing Up Getting Ready to Go Joachim Cooder / Ry Cooder / Taj Mahal / Traditional 02:49
11.I Shall Not Be Moved Traditional 04:19
◇ Personnel;
Produced by Ry Cooder
Ry Cooder – Banjo, Guitar, Mandolin, Vocals
Taj Mahal – Guitar, Harmonica, Piano, Vocals
Joachim Cooder – Bass, Drums
Ton3s – Vocals (Background)
Colin Nairne – Project Manager
Martin Pradler – Engineer, Mastering, Mixing
出だしの”My Baby Done Changed the Locked on the Door”は、タジ・マハールがリード・ヴォーカルを採ります。 もう80歳を超えており、かつての様な太さ、強さは感じられませんが、味わいのある歌声です。 そして、”待ってました”の声が出そうなライが弾くエレクトリック・ボトルネックギターが被さってきます。 家の鍵を変えられて締め出されてしまったと言う、情けない男の唄です。
□ “My Baby Done Changed the Lock on the Door” by Ry Cooder & Taj Mahal;
次は非常によく知られた“The Midnight Special”です。幾多のカヴァーがありますが、オリジナルに忠実な演奏です。ブルーズ・ハープをタジが自在に演奏しています。
□ “The Midnight Special” by Ry Cooder & Taj Mahal;
□ “The Midnight Special” by Sonny Terry & Brownie McGhee;
3曲目の”Hooray Hooray“では、リード・ヴォーカルはライ、リズミックなマンドリンが原曲のイメージを思い出させますね。そこに、ボトルネック・ギター、ハープ、パーカッションが加わり、ラグタイムな感覚が巧く表現されています。 個人的にはこの曲が一番気に入っています!
□ “Hooray Hooray” by Ry Cooder & Taj Mahal;
次の”Deep Sea Diver“は、ピアノをバックにしたリラックスした感じの弾き語りです。ほぼ一発録の様な楽曲です。 タジが弾くピアノをバックにライが歌います。 ブラウニー・マギー単独でのオリジナルとはかなり変わった感じがします。オーヴァー・ダビングしたボトルネックはなくても良かった気もします。
5曲目、アメリカ南部の綿摘み歌”Pick A Bale of Cotton”は、ライ・クーダーのアコギ、ヴォーカルに続いて、ハープとパーカッションがグルーヴをどんどんと推し進めて行きます。 オリジナルのゴスペル・スタイルとは少し趣きを変えた仕上がりです。
□ “Pick A Bale of Cotton” by Ry Cooder & Taj Mahal;
□ “Pick A Bale of Cotton” by Sonny Terry & Brownie McGhee;
続く”Drinkin’ Wine Spo-dee -O-dee”は、このデュオの代表曲の一つのようですが、とても短い楽曲です。 ここでは、タジがリード・ヴォーカルを取っており、代わりにライのボトルネック・ギターがオブリガートを初めとして活躍しています。 間奏がある分倍くらいの演奏時間になっています。 この曲はジェリー・リー・ルイス(Jerry Lee Lewis)がカヴァーして大ヒットしています。
□ “Drinkin’ Wine Spo-dee -O-dee” by Ry Cooder & Taj Mahal;
“What A Beautiful City”は、ゴスペルがオリジナルです。タジが歌い出し、ライと交互にヴォーカルを分け合います。 シンプルの極みです。
次はディープなブルーズ、“Pawn Shop Blues”です(Pawnshopとは質店のことみたいですね)。 オリジナルは、ブラインド・ボーイ・フラー(Blind Boy Fuller)ですね。 オリジナルの方は正統派的なブルーズで、ピアノが加わり非常にビートを強調した楽曲ですが、ここではテンポをぐっと落とし、ライの素晴らしいボトルネック・ギター(ヴォリューム・ペダルを使っているような音?)に焦点を当てた曲になっています。 タジもギターを弾いています。 いつ聴いても、引き算のようなライのギターワークの素晴らしさ、感服です!
□ “Pawn Shop Blues” by Ry Cooder & Taj Mahal;
□ “Pawn Shop Blues” by Sonny Terry & Brownie McGhee;
次の曲、”Cornbread, Peas, Black Molasses”は聴いたことのない曲です。たわいの無い歌詞、こんな食べ物はもううんざりだと言う感じです。
□ “Cornbread, Peas, Black Molasses” by Ry Cooder & Taj Mahal;
10曲目は“Packing Up Getting Ready To Go ”です。この曲ではバンジョーが主役です。そこに、、エレクトリックのボトルネック・ギターにハープが加わります。 コーラスで参加しているのが、The TON3Sです。少しファンキーなリズムアレンジが現代風な感じです。これもゴスペルがオリジナルですから、
ラスト・ナンバーは、良く知られたゴスペル・ナンバーの”I Shall Not Be Moved”です。古くは、チャーリー・パットン(Charley Patton)、ミシシッピ・ジョン・ハート(Mississippi John Hurt)、サンハウス(Son House)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgeraldo)、最近だとヒップホップのパブリック・エネミー(Public Enemy)などを始めとして数多くのアーティストが取り上げています。 オリジナルは、少しドゥアップの香りがするバック・コーラスが付いていて、伴奏はギターのコード・ストロークとハープが彩を添えています。 本アルバムの演奏では、オリジナルとはテンポが異なり、途中でテンポが速くなりよりハープのオブリが前面に出てきます。
□ “I Shall Not Be Moved” by Ry Cooder & Taj Mahal;
ライ・クーダーの Instagramには、本アルバムのレコーディング風景だったり、アルバムのプロモーションのためにサンフランシスコのグレート・アメリカン・ミュージック・ホール(Great America Music Hall)で開催予定のライヴのポスターが掲載されています。 この2日間限りのライヴですが、5月19日、20日の予定が関係者のCOVID-19感染で6月9日、10日に延期されました。ティケットは、150$から85$だそうです、観てみたいものです
2012年4月 Ry Cooder with David Lindley(ここです↓↑)
2012年9月 ネーネーズ 『黄金の花』(ここです↓↑)
2012年9月 『The Long Black Veil』 チーフタンズの魅力とは?(ここです↓↑)
2013年4月 『すべての人の心に花を』 喜納昌吉(ここです↓↑)
2013年10月 デヴィッド・リンドレー 『El Rayo-X 』 (化け物)(ここです↓↑)
2013年12月 ライ・クーダー 『Live in San Francisco』(ここです↓↑)
2017年8月 ジョン・ハイアット - ”Dream band”の再現は?(ここです↓↑)
2017年8月 ジョン・ハイアット - ”Lipstick Sunset”(ここです↓↑)
2019年2月 Ry Cooder 『Prodigal Son』(ここです↓↑)