カール・ウィルスン『Young Blood』 | Music and others

Music and others

偏愛する音楽、Fashion、Macintoshと日々の雑感

$Music and others-YoungBlood00




ブライアン・ウィルスン(Brian Wilson)が最も愛して止まなかった弟、ウィルスン兄弟の末っ子、カール・ウィルスン(Carl Wilson)の2ndアルバムです。

エンジェル・ヴォイスを持つビーチ・ボーイズにはなくてはならないメンバーでした。残念ながら、癌と言う病魔におかされて、98年2月に旅立って逝きました。
2歳違いの3兄弟がバンド・メンバーとして、しかもそれ以外のメンバーも従兄弟という”血縁”で結ばれたバンド、ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)。 私はもちろんリアル・タイムではきちんと聴いて来てきていません。 ライバルであったビートルズ(The Beatles)やストーンズ(The Rolling Stones)と比べてしまうと、少し”軽い”印象を持っていました。なので、聴き流していたのです、当時は・・・・・。




$Music and others-Beach-Boys00





本当の意味で、ビーチボーイズの真髄(凄さ)を知ったのは、80年代以降の話になります。 山下達郎氏、あるいは、萩原健太氏の記事やコメントから興味を持ち、掘り下げていったのです。 この辺のことは、後日ブライアン・ウィルスン(Brian Wilson)のことに言及する際に、詳しく書いてみたいと思います、あくまで私見(想い入れ)ですけど・・・・。 


さて、カールと言えば、私が思い浮かぶのは、"God Only Knows"、"Good Vibrations"と云う代表曲でのハイトーン・ヴォイスです。


The Heart and Voice of an Angel"、彼の墓碑に刻まれたメッセージ、"The World is a Far Lesser Place Without You"、これが彼を表す最適な言葉でしょう。


”God Only Knows”;

$Music and others-Go-Only-Knows






色々な処で触れられていますが、ブライアンが精神を病んでしまい、表舞台より姿を消した70年以降、ビーチ・ボーイズを献身的に支えたのはカール本人です。 本来は次男である"やさぐれ"デニスが、負うべき役割だったのですが・・・・・・。 デニスは、破産寸前の財政状態にあり、アルコールとドラッグに溺れており、バンドを支えるどころではなかったのです。 でも、デニスには彼しか持ち合わせていない個性がありましたけど・・・・。


天才ブライアンに"おんぶにだっこ"的な他のメンバー、そして、常に期待し続けるレーベル、ファン。社交的であった太っちょカールは、外部のアーティストとの様々な交流を活かして、新しい試みをグループに持ち込みました。 一方、グループ内部にも、音楽に対する方向性の違いが明らかになり、守旧派とも言えるマイク・ラヴとの確執が顕著になったと云うことです。
実験的なサウンド、独創的な曲やアレンジ、ではなく、多くのファンにとって分かりやすいサーフィン&ホッドロッド、ロックンロール、ベタな王道路線、偉大なるマンネリズムの継承ですネ。作品を発表する限りは、売り上げと云う結果を出さなければなりません。





だからなのか、単なる気分転換だったのか、グループを離れてソロ活動に意欲満々で、周囲も期待していました。81年にセルフタイトルの1作目、83年には本作『ヤングブラッド』をリリースしました。しかしながら、セールス的には散々な結果に終わり、ファンにもソッポを向かれあっと言う間にマーケットから姿を消しました。


91年に、本国USAではなく日本で先にCD化されました。しかし、その後長らく廃盤となりましたが、2010年になって19年振りにやっと再発されました。 但し、原盤に関する権利関係が(ジェイムス・ガルシオのカリブー・レーベル)複雑に入り組んでいる為か?、現在は1作目が入手不可能となっています。


さて、本アルバムに話を戻します。サウンドは、彼の嗜好するストレートなアメリカン・ロックとなっており、ビーチ・ボーイズの耳慣れたものとは距離を置いています。


ただ、2枚のソロアルバムが制作されたのが80年初頭であり、産業ロックあるいはAOR隆盛となった時期に符合しており、今聴くと、逆に古さを感じさせます。音の薄っぺらなハード&メロー路線全開のサウンドは、やはり少し??な感じを持ってしまいますネ。

バラードは一聴すると、82年リリースのシカゴの『Chicago 16』からのNo.1ヒット曲"Hard To I'm Sorry"に重なる部分があります。


元々、カール自身がシカゴのピーター・セテラ(Peter Cetera)やロバート・ラム(Robert Lamm)と交友関係にあり、後日連名でのアルバムを作ったりしています。 アメリカのジェリー・バックリー( Gerry Beckley)を加えたトリオでのアルバムです。 ずっと未発表のままでしたが、2000年にやっとリリースされました。タイトルは、Beckley-Lamm-Wilsonによる『Like a Brother』です。これも本当にらしいアルバムで、あと少し何かあれば・・・・・と思える内容です。


ハードな曲は、80年リリースの大ヒットアルバム、REO Speedwagonの『Hi Infidelity』に収められたメガヒット・チューンの"Keep on Loving You"にそっくりで思わず笑ってしまいます。当時は、こんなサウンドが席捲していたんだと思い出しました。


プロデュースは、スティーリー・ダン(Steely Dan)やドゥービー・ブラザーズ(Doobie Brothers)のギタリストとして知られるジェフ・スカンク・バクスター(Jeff Skunk Bulster)です。彼は後に、リヴィングストン・テイラー(Livingston Taylor )、スニーカー(Sneaker)、ボブ・ウェルチ(Bob Welch - 昨年拳銃自殺してしまいました)、ナザレス(Nazareth)などを手掛けるプロデュース業である程度の成果を挙げたと思います。



□ 『 Young Blood 』by Carl Wilson in

All tracks composed by Carl Wilson and Myrna Smith; except where indicated.

1. "What More Can I Say"
2. "She's Mine"
3."Givin' You Up" (Carl Wilson, Myrna Smith, Jerry Schilling)
4."One More Night Alone" (Billy Hinsche)
5."Rockin' All Over the World" (J.C. Fogerty)
6."What You Do to Me" (John Hall, Johanna Hall)
7."Young Blood" (Jerry Leiber, Mike Stoller, Doc Pomus)
8."Of the Times"
9."Too Early to Tell" (Carl Wilson, Myrna Smith, John Daly)
10."If I Could Talk to Love"
11."Time" – 3:00

*)Bonus Track
12."Givin' You Up (Single Edit)"  (Carl Wilson, Myrna Smith, Jerry Schilling)


参加したミュージシャンの数も凄い数に及びますが、これと言って印象に残る演奏もなく、誰々が参加しているから買おうというような感じではありません。 参加した方達の一部はこんな感じでした。

◇ Personnel;

Carl Wilson – guitars, lead vocals, background vocals

※)Additional musicians;
Jeff Baxter – guitars, background vocals
Elliott Randall – guitar
Billy Hinsche – keyboards, guitar, background vocals
Ed Greene – drums
Alan Krigger – drums
Vince Colaiuta – drums
Neil Stubenhaus – bass guitar
Gerald Johnson – bass guitar
Jim Ehinger – piano, keyboards
Nicky Hopkins – piano
Myrna Smith-Schilling – background vocals
Timothy B. Schmit – background vocals
Burton Cummings – background vocals
Billie Barman – background vocals

■ Technical personnel;
Jeff Baxter – producer
Larold Rebhun – engineer




収められた楽曲の中では、やはり3曲目から8曲目にかけて、これらのAORチックな曲やメローなバラード、そして、カヴァー曲がいい出来映えだと思います。 

”Givin' You Up”はシングル・カットされた曲で、らしいハーモニーが活きています。 ボートラのシングル・ヴァージョンも含めて、美しいメロディラインが際立っています。




◇ Carl Wilson - One more Night Alone ;




そして、ビーチボーイズのサポート・メンバーであったビリー・ヒンチ作の4曲目、”One More Night Alone”はとてもロマンティックなバラードです。 まあ、少しシカゴっぽい、と言われればそう聴こえるかもしれませんけど・・・・。



”Rockin’ All Over The World”、元々はCCR脱退後のジョン・フォガティのソロ曲です。 でも、この曲を有名にしたのは、ブギー一筋を極め尽くしたステイタス・クォー(Status Quo)です。 


そして、このアルバムの中での白眉とも云えるのが、この曲"What You Do to Me"です。 これはオーリアンズ(The Orleans)解散後に、あのジョン・ホール(John Hall)が発表した佳曲です。でも、内容は不思議なことに、オーリアンズそのまんまなコーラス・ワークが飛び出して来て”ニンマリ”とします。


◇ Carl Wilson What you do to me ;







それから、ちょっと安易なタイトルにしてしまった、リーバー、ストーラー&ドク・ポーマス(Jerry Leiber, Mike Stoller, Doc Pomus)作の”Young Blood”を取り上げるところがとてもらしい選曲ですね。





カールは、このアルバムがリリースされた直後にグループに戻ります。まるで、何かを悟ったかの様に・・・・・・・。そして、自分に言い聞かせるかの様に、ビーチ・ボーイズの懐古主義の中に(Golden Oldies)ひたすら埋没していったのです。 とても複雑な心境であったと想像します。



◆ THE BEACH BOYS -- "GOD ONLY KNOWS" (sung along w/ the late CARL WILSON);



現在のツアーでは、上の動画のように、デニスとカールを偲ぶシーンがあり、バック・グラウンドに二人の生前のオン・オフでの映像を流しながら、代表曲を演奏しています。




最後に、カールは癌であることが発覚した96年には、ビーチ・ボーイズのサマー・ツアーに帯同し、ステージに立ちました。化学療法を受けながらも、ステージでは椅子に腰掛けてそのハイトーン・ヴォイスを聞かせました。酸素吸入器も用意されていたそうです。

そんな状態でも、あの"God Only Knows"を歌う時だけは立ち上がって(襟を正す?)いたそうです。

ありがとう,カール・ウィルスン。