『長英逃亡』下巻にして完結。

上巻はコチラ↓『長英逃亡　上』岩手に行った時に、高野長英記念館に行ったんです。岩手県奥州市というところにあります。（めっちゃマイナーですよね）あんまりよく知らなかった・・・日本史の教科…ameblo.jp

面白かったあ！！

高野長英は宇和島藩主・伊達宗城公の庇護下に入っていたことを知っていたので、下巻ではそのエピソードがあるだろうと楽しみに読んでいました。どういういきさつで宇和島伊達家にご縁があったのだろう？

牢を脱獄し、上州〜越後に入ったのちは阿賀野川を遡り、母が住む奥州水沢へと潜伏しながら進む長英でした。水沢ではほんの束の間、老いた母との再会を果たします。

次の潜伏先を探さなければなりませんが、長英はかつて日本屈指の蘭学者として得意の絶頂だった時に、だいぶ傲慢な態度をとっていたようです。なので全国各地に知り合いはいるものの自分を嫌っている人も多く、おたずね者になった自分を助けてくれそうな人物を見極めなくてはならないのです。

長英は福島、米沢、会津を転々とした後、江戸へ。

江戸は危険ですけど、嘘の情報を流したおかげで、長英は蝦夷に行った説・ロシアに渡った説・死亡説などが語られており、江戸はむしろ手薄になっているとのこと。

江戸で身を潜めて妻子と暮らしていたところ、長英は薩摩藩の探索網に引っ掛かります。

（こういうとこ、ほんと薩摩藩ってすごいと思うんですよね）

実は薩摩藩の世子である島津斉彬さまが高野長英の頭脳を求めており、こっそりと探索させていたらしい。薩摩は琉球に来る外国船問題とかがあって、海防が差し迫った課題だったから。

斉彬さまにツテは出来たけれど、薩摩はお家騒動があって斉彬さまは身動きが取れない。

そこで、同じく開明派大名で海防に関心のある宇和島藩の伊達宗城公に話が行ったらしいです。そういうルートだったのね。

下巻は幕末の有名な人物名が次々と現れるのでワクワクします。

松平春嶽・山内容堂・鍋島閑叟・阿部正弘・江川英龍・徳川斉昭・上杉斉憲など。あ、勝麟太郎もいたな。勝さんは実際に長英（偽名を使っていたが）と面会して国防について議論してたりしますね。

宇和島では念願のオランダ語兵書の翻訳を任されたりして充実した日々を送っていたのですが、ここでも結局、幕府にバレる。

何なの徳川幕府って？

すごくないですか？

どうやら、各藩にも幕府の隠密がいるらしい。

宇和島を逃れてまた江戸に戻った長英です。

昔は自信家で傲慢だった長英は、長年の逃亡生活で、すっかり猜疑心に満ちて心が荒んでしまったみたいで。

以前のようなオランダ語翻訳にかける情熱が薄れ、生活に困り窮乏した長英は、オランダ語辞書を担保に出して金を借りるのです。あの、命ほど大事にしていたオランダ語辞書を・・・

そして生活費を稼ぐために医者に戻る。

その顔のままだと周囲にバレるから、硝酸をかけて顔を焼いて。

ギャアアアアアッ

痛い痛い痛い！この場面、キツかったですよ

この時、長英の頭の中はカネのことばかりなんです。あのプライドが高かった一流の学者が。

つら・・・

妻子を養うためにしょうがないんですけども。子供は次々と生まれるし。

けれどやっぱり。

そんなことをしたってバレるんです。

この時の南町奉行は、遠山金四郎景元です。

ああ〜

長英捕まえたのは遠山の金さんだったんかい。

金さんの命令で囮捜査をして、高野長英大捕物が行われた結果、ついに長英、捕まる。

高野長英記念館の解説だと、最期は役人に踏み込まれてもうダメだと思った長英が自分で喉を突き自害したって書いてあったのですけど、小説だとそうじゃないんだな。

それもとても平凡で、とても哀れな最期で。

吉村昭先生は様々な史料を調べて、現実的な説にて書いたのかもしれません。

ちなみに長英死亡の三年後の嘉永6年、黒船来航。

ここからの日本のしっちゃかめっちゃかは、きっと長英は見たかっただろうなあ。そして当事者として大いに関わりたかっただろうに。

卓越した頭脳を持ちながら、歴史の片隅で死んでいった人でした。

うう、哀れすぎて読後ドヨーンですよ・・・

〜おまけ〜

長英の座右の銘はオランダ語なんですって。ほんとに蘭学大好きだったんだな。

なんて書いてあるのか全然わかんないな。

それを和歌に訳すとこうなるらしい。

たえねばや　はては石をも　うがつらん

かよわき露の　力なれども

（意味：ちいさな水滴でも長年かかれば石にも穴を空けることができる）

訳はジョン万次郎の長男である中浜東一郎さんだそうです。

オランダ語を和歌に訳すってのもすごいわ。

長英逃亡 下

長英逃亡　下