岩手に行った時に、高野長英記念館に行ったんです。

岩手県奥州市というところにあります。

（めっちゃマイナーですよね）

あんまりよく知らなかった・・・

日本史の教科書に、渡辺崋山とともに「蛮社の獄」ペア（？）みたいな扱いで出てきた記憶がある。

うおお〜〜

なかなか壮絶な人生をおくった方である。そしてこの人ってばエキセントリックである

さてこれに触発されて、読んでみました。

吉村昭さんの『長英逃亡』。

あらためまして、高野長英とは。

江戸時代の後期、長崎でシーボルトの鳴滝塾でも学んだ当時最高レベルの蘭学者です。オランダ語の翻訳能力は、この人が国内トップなのではなかったかな。

記念館ではそのルーツや生い立ちから解説されていました。先祖は上杉謙信の家臣だったんですね。その後、伊達家留守政景の家臣となったとか。

記念館の中には、上杉謙信から送られた書状も展示してありました。

↓ほんとだ、輝虎。

蘭学者として学んでいると、自然と世界情勢が情報として入ってきます。当時イギリスがアジアの国を次々と植民地化していることを知り、激しく脅威を抱きます。その折に起こったモリソン号事件。

このまま幕府が鎖国政策のもとにやってくる異国船をすげなく追い払っていても、彼らが本気になって攻めてきたら強大な軍事力にはかなわず、日本も植民地化されてしまう。

このままでは日本が危ない！だから今の外交方策を改めるべきだと、（実はわりかしやーんわりと）『夢物語』という書物を記したのです。

それが・・・

時の老中・水野忠邦と、腹心の部下・鳥居耀蔵（←特にコイツ）の逆鱗にふれ、幕府への批判をしたかどで逮捕されることになりました。これが蛮社の獄。

高野長英は永牢という刑で、小伝馬町の牢に入れられます。

小説『長英逃亡』は、ここから始まります。

小伝馬町の牢に入れられた囚人の様子が詳しく描写されており、はあ、そんな感じだったのねえ、、と意外なところで勉強になった。

長英はもともと蘭方医なので、囚人たちの病気を診たりして何かと世話をしてたので信頼を得て、牢名主になったらしいです。

↓時代劇とかで見たことありますね〜この、畳をいっぱい重ねてその上に座る牢のボス。

牢で出世したってとこがちょっと面白い・・・

囚人が初めて入牢する時には、「命のツル」と言って、カネを牢名主に献上することになっているので、長英は牢で260両のカネを貯めたらしい。儲かりますなあ。

ですが長英の胸からは燃え盛る学問への熱と、日本の将来を憂う焦燥感が消えることはなく、脱獄を企てます。

長英は手なづけた手下に命じ、放火をさせました。

↓こんな。

長英が狙ったのは「切放し」です。火事が差し迫った時に一時的に囚人を解き放ち、3日以内に戻ったら罪一等を減じるというもの。

小伝馬町牢の過去の歴史で切放しは10回行われたことがありますが、帰らなかった者はほとんどいなかったとのこと。なのに今回は長英を含め7名の大量脱走者が出たのです。

（このエピソードから、すでに徳川幕府の権威に翳りが見える気がしますね）

さあ、ここから長英の全国逃亡劇が始まります。

でも、幕府の警察制度がめちゃめちゃ優秀なため、逃亡は至難の業です。早急に人相書きとお触れが出て、各地の関所は厳重だし、奉行所同心や岡っ引きの網が隅々まで張り巡らされている。

日本の捜査能力って、この時からすごいね！

逮捕される前に懇意にしていた学者たちや弟子をつたって隠れ家生活をおくるんですけど、誰が信用できて誰ができないのか人間不信になるし、危ないとわかると次の場所に逃げなくてはならず、ヒヤヒヤドキドキなのです。

長英が目指す先は、母がいる故郷の奥州・水沢。

でもまともに奥州街道は通れないので、まず上州に入り清水峠を抜けて越後まで行き、そこから船で。

逃亡の2ヶ月後に、長英はショッキングな事実を耳にします。

それは、長英を目の敵にして執拗に追いかけている町奉行・鳥居耀蔵が失脚し、代替わりをしたということ。・・・

ガーン

脱獄まで企てたのは、鳥居耀蔵がいる限りどんなに特赦があっても自分の罪が軽減されることはないだろうという絶望感から。でもアイツがいなくなった今、幕府の外交政策はもはや長英が唱えた政策と一致しているので、何もせずに牢で2ヶ月過ごしていたら釈放の可能性があったのでは？

今、自分は放火と脱獄という、誰にもどうにもできない罪人となってしまった・・・

やっちまったなあ！

このシーンは吉村昭先生も心情をよく描いていて、長英の悔やんでも悔やみきれない失望をじんわり味わうと、可哀想で可哀想で

後悔で眠れないほどだったようです。（そりゃそうだよな！）

いや、でもやっちまったもんは仕方がない。

ここまで来たら行くとこまで行くしかない。

越後を経て、目指すは奥州水沢！

下巻に続く。

長英逃亡 上

長英逃亡　上