少し前に読み終わった本で、気持ちの整理をつけるため感想はちょっと置いておいた本です。でもなんとしても今年中には感想をしたためなければ・・・！と思っていたのだ。

古い小説で、すでに絶版ですけどね、とても良い本でした。

満州事変で有名な、石原莞爾のことを書いた本です。

「小説」とありながら小説っぽくはなく、史実の解説文が多かったかな。けれど本の中の石原将軍は生き生きと喋っていたので、やっぱり小説なのかな。

別にそんなに昔でもない昭和史とはいえ、知らないことがたくさんある。そして昭和史だからこそ、戦後平和教育をガッチリされた我々は、こうだよって思わされている部分がたくさんあると思った次第です。

だから石原莞爾のことを称賛したりすると、また右翼みたいに思われるかもしれないですが・・・

本の中に書いてありますが、

今日でも山形、秋田、青森など東北地方へ旅行すると、石原莞爾を心から追慕する人が、思いのほか多いのに驚かされる。

・・・

一人一人の胸に石原莞爾の面影があざやかに生きているのを見ると、彼の人間的魅力がいかに大きかったかがうかがえるのである。

これはお墓参りをした時に思いましたね。今なお心から崇拝する人々がお墓を守っているんだなぁと。

石原莞爾の学校時代のエピソードを読むと、だいぶ変人だったようですけどね・・・天邪鬼で。上司とか権威ある人とか、偉い人の前ではとかく傍若無人に振る舞うんです。

けれど逆に、部下や従卒、旅館や下宿で世話をしてくれる人、立場の弱い人にはものすごく丁寧で優しい。だから下の人たちからは慕われていたそうです。

「兵隊は神様だ」

っていうのが口癖で。これ、「お客様は神様です」っていうのと同じ使用方法なんでしょう。

彼が連隊長になった時にたてた二つの目標というのが、

・実践に役立つ兵隊を作ること

・兵営生活を楽しいものとすること

というから驚きです。

実際、大勢の兵隊が入っていつもドロドロに汚れている浴場に吸塵装置をつけて綺麗にしたり、食事がまずくて残飯が多いのを見て料理人を雇い、おかずを美味しくしたりして、数々の改善を行なっています。昭和の軍人なんて、もっと威張っているイメージしかなかったけどな。現代の企業コンサルタントかよ、と思うような。

こんな上司なら、部下はいいですよね〜〜

逆に、石原の上司になる人は散々な目にあったらしいですが・・・

その最たる人が東条英機でしょう。

そこまで言うかよーっと思いました。いくらなんでもそれは言い過ぎだよ、と思うくらいに酷い罵られ方・・・面と向かってこんな口を聞かれたら、東条英機は殺意とか湧かないですかね。

結果的に、東条英機にこれだけタテついたから、戦犯にならなかったんでしょうけど。

満州事変のことも細かく書いてありました。

石原にとって（というか本来、日本の陸軍にとって）ロシアが最も脅威であり、仮想敵国なんですね。

満州はその防衛線上にあるので、本来は中国と日本が友好関係を築き、ロシアの南下に備えるべきという構想だったのです。なので孫文の辛亥革命が起こった時には、石原は喜んで快哉をあげているくらい。

でも革命後の中国には、まだとても自立する力は無い・・・

しかも各地に蔓延る軍閥にはそれぞれ西洋列強がバックについており、中国はしっちゃかめっちゃかの状態。

そこで打った大バクチが満州事変であり、続く満州建国で。（建国と言っていいのかどうかはわからんが）

石原としては、これ以上は中国に手を出してはいけない、友好関係を結ぶべきだと主張したのですが、もうその頃には軍部の方針と相容れなくなっていました。次第に孤立し、ついに石原はお役御免となる。

わたしなりに端折ってかなりあっさりと書いてみましたが、もっともっと複雑で細かい経緯があります。本を読む前に思っていたイメージとかなり事実は違いましたな。

それにしても当時の政府、特に幣原外相は、絶対に絶対に開戦してはならないという、頑なまでに平和愛好・国際協調の方針であったのに、「弱腰外交」とかってむしろ世論の方が沸騰してたりして。大衆の熱狂とは恐ろしいものです。軍部暴走の後押しをしたのは、他ならぬ国民なのでは・・・

色んなことを考えさせてくれる本でした。

ところで本のタイトル「夕陽将軍」てどういう意味なのかと思っていました。

石原莞爾は重い膀胱がんにかかり、晩年はかなり苦しみました。彼が療養している酒田の地から、海に沈む夕陽が見えるのです。

夕陽の沈む方向には、石原の生涯で最も輝かしく、情熱の全てをかけた満州がある。満州は砂上の楼閣のようにあっという間に無くなってしまったけど・・・

人生がもうすぐ終わろうとしている時に見つめる夕陽の先の幻の満州というのが、もう感動で感動で・・・

胸がいっぱいになって、本を閉じて涙してしまった。

〜おまけ〜

お墓に飾ってあった石原莞爾の写真です。遠くを見つめる目が澄んでいて、良い写真ですね。

お墓の近くにある道の駅で、お昼に食べたエビワンタンラーメン。まあまあ旨かった。