自宅で仕事をしながら
ふと
雨の匂いがして
窓の外に目をやると
しとしとしとしと
やはり
春のしずくが
落ちてきた

しとしと
しとしと

けれど
なんだか今日は
外の景色が
まるで
人ごとのように
切り取られた別の世界のように
そんな風に感じられる

数年前
ロンドンで滞在した
とあるホテルを思い出した

高く切り取られた窓から
街路樹を望んで
やはり
今日のような
春の雨を
一人で眺めたことを思い出した

色々な国の
色々なホテルを旅したけれど
その
ロンドンのホテルは
静謐で
おだやかな気が流れて
私は
とても気に入っていた

また別の日では
その窓から見える
芝生のひかれた小さな庭で
陽が傾くまでの間
ウェディングパーティーが行われ
その日
ブライズメイトを務めたらしい
小さな金髪の女の子が
水色のドレスを着て
花嫁さんのブーケを片手に
庭を
走り回っていた


窓の外の景色はいつも
町の図書館で見つけた
小さな詩集のような
または
海外の古本屋で見つけた
可愛らしい絵本のような
ささやかで控え目な
物語を教えてくれる


書き物をしていた手を止めて
あの
女の子が来ていたような水色の
小さなハンカチを探して
雨のしずくを拭ってみた