19歳の時に恋した
S先生のことを思い出した
たしか
20歳くらい年が離れていたと思う
先生といっても
直接私は彼の授業を受けたことはなく
もちろん
会うのはもっぱら学校の外だった
私の大好きな映画
『存在の絶えられない軽さ』
や
ヴィスコンティ
タヴィアーニ兄弟の映画
思い返せば
それらはすべて
S先生が好きで
私に勧めてくれた映画だった
先生が進めてくれる以前に
観ていたものもあったけれど
先生が好きな映画だということが
私のお気に入りのきっかけになった
S先生は
とても手の指が長く美しい人で
『存在の絶えられない軽さ』の
ダニエル・デイ=ルイスに
その手は似ていた
確かデイ=ルイスのことも好きで
『眺めのいい部屋』の彼の気品について
とくと語っていた記憶がある
私たちが
ぼんやりとした理由でお別れした夜は
車の助手席で
フロントガラスの向こうの景色を見つめながら
まるで
映画を見ているようだった
会わなくなってしばらくたってから
手紙も何もなく
ただ
一冊の本が
S先生の名前で送られてきた
名優ダーク・ボガードの書いた
『レターズ』
という本
それは
ダーク・ボガードと未知の女性Xとの
5年間にわたる文通の記録を書いた
大人の男女の
恋と友情のはざまの記録を書いた本
S先生は今頃
どこで何を想って
過ごしているのでしょうか
私は
15年たった今も
一番好きな映画は
『存在の絶えられない軽さ』
です