私の髪を…誰かが撫でている。
深夜12時を少しまわったところ。
仕事部屋のアラームが…
遠くで鳴っていた
同時に…
PCのモニター画面が立ち上がり
青白く光り出す
当の私は…
目を見開くことはない
正確には「見ることが出来ない」でいる
身体が動かない…
話すことさえ、許されていない…
まるでなにかの「術」によって
押さえ付けられているように
ベッドの上で、無力のまま横たわっている
ふわり…ふわり…
その手は、優しく私の髪を撫でている
不思議に嫌な感じはしない
身体が動かないのに…
怖いとか、気持ち悪いとか…
そんな感情もない
…なんだろう
遠い昔。
蚊取線香とい草の香り……ひぐらしの声…
扇風機のモーターの音…
カサカサした浴衣の手触り…
誰かの話し声…
お祭りに行くのを待ちきれず…
疲れて眠ってしまった私の髪を
大きな優しい手が撫でてくれている
あたたかくて、心地よくて…
大きな「安心感」という名のゆりかごに揺られてるようで
眠ったふりを続けていた
…身体が重い。
見えないでいる主の体重を感じる
私の左肩に触れた、額
ちょっと長めの髪が…
私の頬にかかる
ベッドに押さえつけられているはずなのに
背中に回っている腕の力強さも…
はっきりと覚えている。
…この世のものじゃないものに、抱きしめられているんだ
…しばらく身を預けることにした
ずっと抱きしめられている。
それ以上に、なにかするでもなく…
ただ…
私の左肩に額をうずめ…
きつく抱きしめられている
「……………重いよ…」
唇だけで呟くと…
ふわっと柔らかい髪が、私の頬をひとなでして
身体が軽くなる。
涙が溢れ出したのは、その重さがとても心地良かったから
突然、ひとりぼっちで
深い漆黒の闇の中に、放り出されたから…
私は眠りの淵に落ちて行った。
…翌朝…
夢だったのか、現実だったのか…
泣きながら眠った事だけは、本当の事だったようで
鏡の中の私は、ひどい顔をしていた。
(2019/8 某雑誌の短編読み物用に、書いたものです。)