運転中のTさんに代わり、何かは全くわからないが“箱”を探す事になった私。

何で旅行の最中に車内の捜索をせにゃならんのだ…、と渋々辺りを見渡すが見える範囲には“箱”らしき物は無い。

仕方ない、座席の下か。

足元を手でまさぐるがここにもない…、後部座席の足元に手を伸ばすと運転席の背もたれのすぐ下に“箱”らしき感触が。

即座に引きずり出しTさんに渡す。

『これ?』

するとチラッと箱を一瞥した後、『海外旅行して来た友達に頼んでおいた』と言う。

…急に何の話だ?
海外行ったから頼むって、何を頼んだと言うのだ?

そして箱と一体何の関係が…ってまさか………これ。

『(変な)薬?』
と思わず聞く私にTさんはがっくりと肩を落としてこう言った。

『…箱見て言ってるのか?』

箱がなんだ!
と若干キレ気味な私はTさんに差し出したままの箱を見つめた。

…見た事のあるマークが入ってるな…、これはあれだ。

箱はLOUIS VUITTONに見えるが中身をごまかす為か、何と巧妙な!

世の中にブランド物のコピー商品が出回っているが、箱まで作って用意されているとは知らなかった…。

なんてこった、これはハイウェイカードにひき続きよく出来た箱だ。

中身だけじゃなく箱まで犯罪じゃん…、と心の中で呟き手の中の箱をみつめる私。

箱を手にしたまま動かぬ私にTさんは…。

『それ、お前に』と言った。
目的地まで2時間半程の道程、隣に座り窓の景色を眺めていたがTさんは珍しく静かに運転している。

いつもなら黙る事の方が少ない男が静かなのは何故だ?

しばらくはそのままにしていたが、どうも気になる。

『珍しく静か…』そのまま口にすると、彼は前を見たまま『お前が音楽聴いてたから黙ってた』と言うではないか。

…いやいや、違うだろ。
あんた人が音楽聴いてようが、聴いてるから黙ってろと言ったとしても、お構い無しでいつも話かけてくるだろうが。

変な男だ…まぁ放っておくか。

すると運転しながらモゾモゾと手探りで何かを探し始めた、喋らないと思ったら急に妙な動きするし何なんだ。

しばらく探していたが目的物がどうも見当たらないらしい、一つため息をつきTさんは言った。

『どっかに箱無いか?』

…箱?
それは『タバコ?』と聞くと違うらしく、とにかく箱があるから探してくれと言う。

何なんだ、まさかまた変な物じゃあ無いだろな?

旅行まで非合法なブツの取引があるとか言ったら、術後の腹がもう一度開くように車降りたら回し蹴り入れてやる…。
旅行当日まで行き先を聞くという事をすっかり忘れていた私。

これから向かおうとする車内で聞く事に、しかし何処に行くのかと聞いたタイミングが遅過ぎたせいかTさんは固まった。

『言って無かったか?』と彼は聞いたが、言って貰っても無いしこっちから尋ねても無い事を伝えると…。

しばし私を見つめまま再び動きが止まるTさん。

無言の顔は【お前今まで行き先何処か気にもとめ無かったのか…】と言っているらしい。

心の中で【その通り、気にもとめて無かったよ】と呟く私にこう言った。

『××にある会員制リゾート』

…会員制?
あんた会員制リゾートなんか契約してた訳?

『誰の?』と思わず聞いてしまった。

連れてって貰う分際で、最初からあんたが持ってる訳無いだろう、と決めてかかる失礼な私。

しかし彼は気にもとめずにこう言った。

『友達のだよ、彼女と一緒に行って来いって部屋取ってくれたから』

ふぅん、そりゃ優しい友達だな、変なのとばっかりいる訳じゃ無いんだ。

『そか、良い人だね』と言う私を一瞥した後、黙って車を出したTさん。

こうして彼との“初”旅行がスタートした。