麻布の情報網 | 「意識低い系」より「高い系」

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書籍化のスカウト待ってま~す♡ノンフィクションライターが書いているフィクションって言いたくなる物語

 うーは、久しぶりに食べた友達の店の食事も辛いことがお互いに遭ったのを感じながら噛みしめ、どんな味だったか何を食べたのかもわからないほど心がふわふわしていた。
友達が着ているTシャツには、「復興東北、頑張れ東北」の文字が大きく書いてあった。
友達は石巻の高校に通っていた。偶然、この麻布で出会い、偶然、宮城県出身だと知って仲良くなった。Tシャツの文字を見るとウーは涙が出そうになったのを隠すために味噌汁を飲んだり、ご飯を食べて気づかれないように明るく振舞った。
 「死んだやつもいっぱいいるよ、ウーさんのうちは大丈夫だった?」



 「うん、うちは街中にあるから、津波から遠いと思ってたけど、テレビで見たら、新港が燃えていたからさ、でも、住んでいる人は、全然テレビもラジオも無くてわかんなかったらしいね」
 まだ寒い季節の出来事、若い人は安全な場所まで避難して、年寄りたちは腹をくくって家に残った。ウーは物件探しをしていた途中で、この店に立ち寄ってよかったと油断していた。
 ペラペラと今まで見てきた物件の話を友達に話したら、急に携帯電話が鳴った。さっき会った不動産屋だった。
「ウーさんが迷っていた掘りごたつがある物件は、決まってしまいました。ダメですよ、ちゃんと全部、あるものは隠さずに言ってくれないと無くなっちゃいますよ」
はぁ?
いつもこうだ。ウーに感動をしている時間も、おいしい食事をしている時間も、許さないぞって言ってるように、がっかりの電話が鳴る。
さっきまで、生きててよかったって感動の再会を果たしていたというのに、もう生きて会えたんだからそれで充分だろと言わんばかりにどこかのなにかのがっかり運が、ウーをがっかりの底へ連れ去っていくのであった。
だからウーは、幸せだと思うことも少なくて、結局自分は絶対に不幸の貧乏神が取り付いているんだと思い込まずにはいられないように、ひどい電話の力でどん底に突き落とされるばかりで、みんながそんなに悪い人生じゃないってと励ましても、全然満足な気持ちになれなかった。