不動産屋の怪談 | 「意識低い系」より「高い系」

「意識低い系」より「高い系」

書籍化のスカウト待ってま~す♡ノンフィクションライターが書いているフィクションって言いたくなる物語

 「幽霊を見たことがあるんです。しかも白昼、堂々とした幽霊で女性でした。はっきり姿も覚えています。チラシを外で配っていた時のことです。幽霊がいるときは、少し空気が冷たいと感じるとおもいますが、その時もひんやりとしてゾクゾクッとしたのであたりを見回すと、すぐ隣に立っていたんです」

 「どうして幽霊だってわかるの?」

 「透けてるんですよ。向こう側が。通りを歩く人が見えるんです。その女性は僕の隣に立って僕をじっと見ている。髪の長さまで覚えています。とにかく気色悪かった。どこがと聞かれたら、存在そのものが怖かった。すぐに逃げました。逃げて会社に戻って、嫌な気持ちを晴らすのにお酒を飲んだり、生きている人と話しました。幽霊は本当にいるんだなって信じています」

ウーはオバケ仲間ができて少し嬉しかった。
「やっぱり、オバケ、いるよね。私、宇宙人もいると思っている。ずいぶん前に緑色の宇宙人のような人を2回も見たことがあるの」
「宇宙人!?」

「オバケは今住んでるマンションで、十分すぎるくらいあったんだけどね。友達が遊びに来て一緒に外のバーで飲んで帰ってきたとき、全身金縛りにあってね、全然動けないの。今、火事になったら絶対逃げられないって思って、なんとか声を出そうとして、「助けて」の「たす」まで出たら、金縛りが解けたんだけど、部屋の中に大きな大目玉のオバケがドーンって浮かんでた。また別の日には、マトリックスって映画があったでしょ。あれって緑色の文字がたくさん出てきて頭の中?に流れているのか、自分の目に見えているのか、映画を見た限りではどちらともわからなかったんだけど、あれが部屋に現われたの。まさにマトリックスそのもので、緑色の文字が空中に現われて流れている。オバケ屋敷って言うよりは、ユニバーサル的なサービスともいえるかな」

 このほかにもウーはビッグフットのことや、昆虫のことを話し、
「この間は、雷の時に写真を撮ったんだけど、見て!」
写メに収めた空を不動産屋に見せた。
「ああ、髑髏が空に!?」
「でしょ、髑髏に角が生えてるの」
「わかります。これは部屋の中を見ているような……」
「このほかにも、月がね、ピンク色の座布団に座っているようなのもある」
「わぁ、この写真もすごいですね」
「でも、幽霊を見るときというのは、気持ちが弱っている時だって聞いたことがある。強気な時ってそういうの全然気にならないっていうか気がつかないようなリズムで生活しているでしょ」
「あ、今、気持ちが何か吹っ切れました。そっか、気持ちが弱っているときに幽霊を見るんですね」
「うん、たぶん、結構気が強いのに、さすがに今住んでいる町は人間も最悪でね、人に自分の失敗をなすりつけるとか、嘘をつく、嘘泣きをする、仕事のじゃまをする、仕事をさぼる、集団でいじめをする、嫌がらせや失礼な言葉を投げつけられる、歩いているだけでそういうことがあるところで、さすがに気が弱ったよ。この部屋探しだって、つい泣いてしまったこともあったの。やってる人たちは、軽い気持ちだったのかもしれないけど、相談相手もいなくて、何か悪いことをしたわけでもないのに嫌がらせを受けるというのは、こんな年になってあるとは思っても無かった。それで超常現象が追い打ちをかけるんだもの、ぜんぜんシャレにならないし、憎しみすら覚えて、自分の友達も信用できなくて、それでも東京に帰ってきなよって言ってくれた友達のおかげで、部屋探しできてるの」

不動産屋は、ウーが出会った不条理がどんなものだったかわかっている様子だった。
「信用できなくなることが心を弱らせるんですね。僕にも心当たりがあります。前の仕事で悩んで転職して、本当に良かったのか自信が無かったんですよね。真剣に悩んでいました。心ここにあらずという状態だから幽霊が近づくんでしょう?」

「幽霊も電気なのよ。すごく弱い電気質で、塩はけっこう効き目がある。鏡とか、家電製品とか、電磁波が生じる近くに出ることが多いのかなって、お墓とかで出る幽霊も、出る場所の電磁波が異常な数値じゃないのかなって思ってるんだ」

「ウーさん、この物件はどうします?古いので怖いですか」
「ううん、部屋も広くて便利なので、少し考えさせて」
「じゃあ、会社に戻って契約書をお渡しします」
ウーは、秘密の不動産屋の物件を見たいので、何とか契約を引き延ばしたかった。
「来週まで返事待ってもらえますか」
「できれば子供もまた生まれるので、契約してほしいというのが本音です」
こんな話をしているが、祖師谷に来てから重力が重すぎて足が動かないウーだった。
ウルトラマンの体重って、確かすごく重たかったよな……。

土地の値段と重力が比例しているというよりも、ウルトラマン率じゃないのかなとウーは重い足を引きずって考えていた。
「ウーさん、僕もすごく足が痛いです。久しぶりに歩いたせいだと言い聞かせていますが……」
「うん、たぶん祖師谷は重力がすごく重いよね」
もしかしたら将来すごく土地の値段が上がる場所かもしれない……なんてことを考えてオバケ屋敷に帰った。