涙の脱出 | 「意識低い系」より「高い系」

「意識低い系」より「高い系」

書籍化のスカウト待ってま~す♡ノンフィクションライターが書いているフィクションって言いたくなる物語

 「お願いします、助けてください」
 駅前の焼鳥屋がにぎわっていた。アーケードに囲まれた商店街もどこも長蛇の列ができている。

 数分並んで入ったラーメン屋は「女性限定、本日半額」。ラーメン屋は女性客でいっぱいだった。つい、さっきの出来事だ。ラーメン屋を出たウーは、本当の目的だった不動産屋へ向い、溢れる涙をこらえきれず、
 「オバケが出ない部屋を探しています」
 食事を終えたばかりというのに、力なくふらふらと勧められた椅子に座って差し出されたお茶を飲んだ。
 
 「何があったんです?」
 
「お化け屋敷に住んでいました。頭がおかしくなりそうで部屋を探しています」


 ウーの様子が尋常でないと誰が見てもわかる状態だった。不動産屋の空気は温かく、担当になった彼は背が高く男前だった。

 「仕事をしていると普通に時間が過ぎますが、一日、家にいる仕事の人はときどき確かにおかしなことを言います。住んでいる部屋を変えるというのは、みなさん事情を抱えていますが、最近、信じられないことをいうお客様が増えているんです。良かったら話を聞かせてください」

 ウーは、鼻水が垂れるのを拭きながら、
 
「たぶん、他の人と同じです。誰かに追い回されているような気がするし、部屋にお化けは出るし、どこかに普通に暮らせる場所はありますか。どうかお願いします」

 不動産屋の申込用紙に条件を書き渡すと、お兄さんはパソコンで条件が合う部屋を探し始めた。
 
 「たくさんあります。ええと、このままここでお待ちいただいてもいいですが、今日は少々混んでいて、1時間ほどかかります。どこかで買い物などを楽しんできては?」
 
 「はい、お言葉に甘えてあちこちぶらっとしてきます」

 ウーは安心した。物件はたくさんあると言っていた。お化けが出ない部屋を探し出せば脱出は成功のはずだった……。