「意識低い系」より「高い系」

「意識低い系」より「高い系」

書籍化のスカウト待ってま~す♡ノンフィクションライターが書いているフィクションって言いたくなる物語

Amebaでブログを始めよう!
 誰かの役に立つ人間という言葉は、ウーにとって
「自分が信じてやっていることは、必ず誰かの役にも立っている」
 ウーが安心して暮らしていた頃は、自分の発言も自分の行動も間違っていることは何もないと信じて疑うことは無かった。近所に住んでいた独り暮らしの友人たちのために、食事を作って待っていた日もあった。泣いている友人がいたらすぐに駆けつけて悩みも聞いた。悩みを解決したこともあった。ウーが持っている力の限り友人を助けるように生きてきた。給料が少なくてしょぼくれた友人にはごちそうをしたし、友人の彼女が友人にフラれたとなぜかやって来た時も朝まで話を聞いて、ただの腰がる女だったからフラれたと分析までして、説教して、心を入れ替えないとあいつはあなたのもとには帰ってこないとまで言ってi家にあった一番高いワインを飲まれた日には、酔っ払い女と化した友人の彼女にオーダーメードで作ったロールカーテンを壊され、それでもウーは自分は正しいことをして生きていると信じていた。

 友人の三角関係を解決したときも、なぜかウーの家で会談が始まって、裁判官のように間に割って入って話を取りまとめたこともあった。確かにウーには、下ネタ好きの友人がいて普通の人に疑われるような会話をしている日もあった。けれどウーは、なんだかんだ言っていても品行方正だった。地方公務員や死体解剖のドクターやアル中のオカマという濃厚な人々が周りにいたけれど、地域のために花壇に花を植えたとか、タバコの不始末を注意したとか、やってきた。にもかかわらず、すでに原因がはっきりしたと言われている寝起きが悪い朝の、被害者。
 新しい町に来てからも老婆に囲まれ、確かにローバーに乗っていたけれど、ローバーと老婆は違うじゃないの!
 でも、老婆はみんなウーにやさしかった。ウーはいつかこの老婆たちが仲良くなれるようにティーパーティーを催したいと願いながら生きていた。
 老婆たちは、若い頃のいざこざでお互いのことを嫌いながら生きていた。でも心のどこかでお互いの健康を気遣い、ウーがそれとなく様子を話すと仲が良くないと言いながらこころのどこかで嬉しそうにしている気持が見えた。
 ウーには、散歩で知りあった数人のおばちゃん友達もいた。最初に出会ったのは、お金持ちってわかるような人だった。綺麗で華やかで上品な彼女は、「散歩のときのお友達がいない」と言っていた。立ち話している間に、彼女が何気なく飛ばした小石がウーの鼻に当たってケガをした。彼女は、自分が通っている病院を紹介して、治療費も出すわとそれからというもの、この町の焼き鳥屋さんで一緒になることもあり、娘さんを紹介され、綺麗な娘さんだった。
「今後ともよろしく」
「こちらこそよろしくお願いします」
 ウーは決して、ヲタクとか性格異常者などではなく、きちんとセレブのお友達もできるような人間だった。やっと元通りの生活ができる。あの、埼玉県で起こったような異常な人たちはこの町にはいない! 自分を取り戻せそうな気がしていた時に、また巨大なトラックが細い道を塞ぐように止まって、苦情を部屋の中でぶつぶつつぶやくようになった。間もなく巨大なトラックはウーをあざ笑うように、駐車場に止まるようになり、その駐車場を持っている会社の人が、
「……さあ? とにかくここに留めてほしいと言ってきてるんです! どうしたらいいですか」と、会社の外に出て電話しているのを見てしまい、疑心暗鬼が心に住み始めた。
(どこまで追いかけてくるんだろう、このステキな街に迷惑までかけて追いかける意味は何?)
 このストレスは、ベタが水槽で泳いで慰めても慰められるものではなかった。間もなく、十年は壊れないと取説に書いてあったシュレッダーと空気清浄機が同時に壊れ、ウーの新しい生活や希望に、小さな不自由を作り始めた。

 
桜が咲いた後は、あちこちの庭の花がカラフル。
いつもの散歩道もカラフル。
若葉がキラキラ、太陽を反射している。
「若葉の枝を花瓶に入れてごらん、根が出てくるから、根が出たら、鉢植えに植え替えるの。この間、公園に咲いていた白い椿の花を見つけて、本当に小さな枝だったけど今うちの庭で腰の高さまで大きくなったよ。綺麗に花も咲かせているし、やってごらん」
ウーは近くの公園に行って、良さそうな枝を探したけれど、
公園には花が咲いてなかった。
散歩道の花は草ばかりで、木の枝に花を付けるのはアジサイだけだった。
ウーは花瓶をいっぱい持っていた。
インテリア好きの友人に誘われてインテリアショップの
バーゲンに行ってイタリア製の花瓶をたくさん買ったことがあった。
地上の気が乱れると、風水の本を読んで、東西南北に花を飾った。
東には赤い花、西には黄色の花、南には白い花、北には紫の花、
家電の上には小さなサボテン。サボテンは音を聞いて成長するって
どこかで読んだ本に書いてあったから。風呂場に飾ると
あとくされなく別れられるって書いてあった。
キッチンにはポトスの小さな鉢を飾った。
気が乱れる場所は、水と火を使うキッチンや、
お湯と水が出る風呂場や、人の出入りがある玄関。
玄関にはカサブランカを、
風呂場にはまりもとベタが入った水槽を置いた。
ベタには名前を付けた。
「ルックス、今日からよろしくね!」
ベタはルックスと呼ばれてぷっと色を変えた。
「やだ、怒ってる」
ウーは、ルックス以外の名前を考えても
太郎しか思い浮かばなかった。
「太郎ってよりはルックスでしょ」
ベタは仕方なさそうに泳いでいる。
ウーの部屋では、何か不自然な出来事が起こっていた。
どこからか聞こえてくるジーという音。
どこかで漏電しているんじゃないかしら?
ベッドから時々電子音が聞こえる。ピピ、ピピ?
しかも二カ所から聞こえている。
足元のほうと頭のほうから違う電子音で、ピピ、ピピ
電子レンジは、ちゃんと温めるを押しても温めないときがあった。
「気のせいだと思えば大したことじゃないでしょ」
ウーの友達はウーの悩みに答えてくれない。
どこかにきっといるはずのウーの悩みを解決してくれる人
探す心が、ウーをいつまでも旅人にしていると
ウーはまだ気づいてなかった。

「動物はなぜ動物園から脱走するとおもう?」
ウーは散歩しながらくだらないことに思いを巡らすのが好きだった。

「あ、こんにちは~!昨日は見かけなかったからどうしたのかなと思っていました~」
ウーが歩く散歩道には、いつの間にか挨拶を交わす「顔見知り」ができた。

顔見知りというのは、相手の名前がわからないけど言葉を交わすレベルの人。全然相手の名前がわからないのに、相手の生活のごく数分間を共有している毎日が、親近感を産むのであった。

ウーのお母さんは、ウーが住んでいる場所の少しの部分を見て、とても田舎だと感じていたことを知ったのは、ついこの間のことだった。確かに小さな店ばかりの町だった。東京の素顔というのは、意外と小さな店でできた町のほうで複雑な迷路のように細かいわき道を歩く楽しみが東京の良さということをウーのお母さんは知らずに今日まで生きているのであった。

大きなショッピングセンターや長い長いアーケード街がある街に住んでいるお母さんには、とても馴染めない細かな店は、小さな箱庭のようで歩きづらかった。どこに入っていいかわからないほどたくさんある店は、老舗のようだったり、汚くて安いと感じたり、シロウト臭いと感じるのであった。
ウーの母さんが住んでいる町は、細い道をほとんどなくして、がらんとしただだっぴろい道づくりをしているので、それが都会になることだと信じていた。

新宿や有楽町や銀座や浅草しか行ったことが無いウーの母さんは、なぜウーがこの町を選んだのか理解できないまま、この町に来ると狭い道幅でイライラして不安になるのが抑えられないでいた。
きっと、正解は浅草だったのだ。
田舎から出てきた大きなショッピングセンターになれた地方の人間が歩きやすいのは、どこに何があるとわかりやすい町のほうが安心で、観光客やオフィス街のスーツの人がたくさん歩いているほうが安心だったのだ。

ウーはもう一度、なぜ動物は動物園から逃げたがる?と自問自答した。

あなたの生きる範囲はここからここまでと与えられた生活が窮屈で退屈だから外に出たがるんだろう……。

外に出て、麻酔銃で撃たれて、また連れ戻される。
目を開けると、もしかしたら外に出た記憶までなくしているかもしれない動物の好奇心は、飼いならされて住みづらい外の世界に憧れて、もしかしたらあそこ壁を越えられると逃げ出す用意を始めるんだ。

ウーは子供の頃、母さんとケンカすると家の外へ出た。町へ行って、どこで1泊できるかうろうろしていた。友人に電話して泊めてくれとお願いして、友人のお母さんが、ウーのお母さんに電話して喧嘩が終わる。
大人になってからの親子喧嘩は壮絶で、シャレにならなかった。
ウーの周りの友人も何人か壮絶な親子喧嘩をしている人がいて、意地や根性で東京や神奈川で頑張っている人もいる。
でも、親たちは年を取って、まるで別人のように穏やかな面ができて、自分の好きなことばかりしてきたウーは、少しだけ、他人の役に立つ人間という生き方があることを知った。



この町の街路樹に、ウーは目を細めた。最初の花は、低いところから始まる。この町の並木道を気に入ったからこの町に住んでいるという人は、きっと100人中100人。ウーは自転車を新しく買いたいと自転車屋さんの店先で自分に合う自転車はどれだろう……。

この町は、自転車屋さんがとても多い。しかもとてもカッコイイ自転車ばかりでどこの店で自転車を買っても誇らしげでいられる。盗まれないように鍵も買わないと……。鍵もカッコイイのを付けたくなる。ウーの友人のうち、2人の男友達が自転車が大好きで、どんな自転車を買えばいいのかアドバイスしてくれた。けれどウーはあまりにもマニアックすぎて全然話についていけない。
「ウーちゃんの近所は、坂が多い?」
「ぜんぜん」
「僕は都内のほとんどを自転車で移動するからスポーティーな自転車に乗っているけど、ウーちゃんは近所ぐらいだろ?」
「失礼ね! うちの近所のすごさを知らなすぎー! どこまでも桜並木が続いてどこまで続いてるんだろう。多摩川の土手まで続いているって聞いたけど……。渋谷方面だと中目黒まで行けるんじゃないかしら」

ウーの部屋はとても狭くなったけれど、ウーの行動範囲はとても大きくなった。
どうしてこの部屋に決めたんだっけ……。
ウーは、取材に行った先で泣き出してしまった会社が作ったという物件だったので、とてもいいことがありそうな予感があったことをおもいだした。
高層ビルディングを作らないと言っていたあの会社は、この近所にどんどん低階層のアパートを作っていた。あの新築のアパートもA社のアパートって書いてあったわ☆
自転車で散歩していると、近所の新築物件の施工会社をついつい見てしまう。大きな住宅ショールームが近くにあって、マイホームのプランやアパートのプランを相談するのにお客さんが集まっている。ウーが分譲マンションに住んでいる頃から、この場所には住宅ショールームが立ち並んでいて、
「いつかはマンションじゃなくて1軒屋にも住んでみたい」
と、言っていた。
分譲マンションを買った時には、ここに一生住むというつもりは全然なかった。このマンションを時期が来たら売って、田舎にカッコイイ1軒屋を買って、アヒルや鶏やウサギを買いながら、部屋には犬と猫がいて、庭には野菜と花が咲いていて、木には柿や梨が実を付け、夫は2階の部屋で、ウーと犬や猫は1階の部屋で家庭内別居生活するのが夢だった。

「玄関も別にしようって言ってたっけ……」

楽しい家庭内別居を夢を見ていたあの頃……。
どこに住むかも決めていたのに、全く眼中になかったこの町に住んで、桜並木を自転車で走る快感。向こうから、テレビに出ているあの有名人が、自転車に乗ってすれ違った。
やっぱり春は自転車が最高!
徒歩もいいけど、徒歩は夏に任せて、春は自転車で心地よい風を受けながらサイクリング。
やっぱり、A社の物件にしてよかった。いい予感ばっかりだもん。これで、めっちゃ楽しい生き甲斐が見つかったら、文句なしだね。
ウーの頭の中も春が来ていた。






ウーは東京に住むようになって幸せな時間と狭い家屋の不便を与えられた。ウーは今まで1Rに住んだことが無かったのだ。2DK~2LDKの暮らしになれていたせいで、テーブルやソファが無い、部屋の割にテレビが大きい、ベッドが大きい、荷物が多いなど、ウーがいつもいる場所はベッドの上に、ソファと組み合わせていたローテーブルを乗せ、それでもウーが寝るスペースがあるというベッドで過ごした。
気分転換に部屋の中を散歩していたウーは、散歩ができないので、必ず外へ出かけるようになった。ウーはどこまで頭を汚染されていたのかわからないが、1か月もかけて選びに選んだ部屋が1DKでクローゼットが1軒だけという物件を選んでしまった。
どこでそんな記憶違いが生まれたのかわからないけれど、物件の見取り図を埼玉県に持ち帰ってどれにしようか決めているときに、頭の中には2軒分のクローゼットがある部屋が浮かんでいた。2軒分あれば、ウーの荷物はほとんど収納できたはずだった。まったく収納できない荷物の数々。
東京都の場合、新築の1ルームマンションより、アパートのほうが部屋が大きくできている。マンションサイズの畳の大きさとアパートの畳の大きさが違うためだ。アパートの場合、昔の畳のサイズを使用しているのでマンションより大きな部屋になっている場合が多いのである。
西麻布のマンションはカッコよかったけど、違法になるんじゃないかというくらい細いドアを開けると、トイレが使えない、トイレを開けると、キッチンが使えない。トイレも凄く狭くて、トイレでものを考える癖があるウーには身動きが取れない窮屈な棺桶のようでいただけなかった。お風呂と別になっているのはよかったけれど、井戸のようなお風呂だった。かっこいいけど無理なものと、カッコ悪いけど安心できる大きさというものがある。
家賃でつべこべ言う人がいるけど、50万円の家賃に住んで部屋の片隅で膝を抱えている人よりはベッドの上で正座している人のほうが魅力的だとウーは思った。
いや、全然魅力的じゃない。笑うしかない生活にウーは、どこに希望や夢を持てばいいのか自分の意識を高く持つための努力を必要としていた。
クスッ 懐かしい怒号が聞こえた。
大勢で合唱してるゴスペルのようだった。
楽しみに待ち構えていたのね。
マンションの前に盛が付いた猫たちがギャアギャアと鳴いていた。
埼玉県のマンションの近くを流れる川ではカエルがギャアギャア泣いていたけど
東京の新居での川は、おばちゃんたちが
「おはよう」「おはようございます~」
小さな犬を連れて仲良くおしゃべりしている
専業主婦っていいわね、子育ても終わって
「子供よりも犬のほうが可愛いわ」
ウーは軽く会釈して
「はぁ~、本当にいいところに来た。埼玉県とは大違い」
ウーは埼玉県を愛せなかったわけじゃない。
いつまでも木造の役所が明治記念館みたいで嫌いじゃなかった。
けど、一昨年、転居の届けを出した東京の役所が建て替えたばかりで最新の機能が付いた建物だったことを知っていると、埼玉県の役所は気の毒なくらい古臭い役所だった。でも役所の人はとてもやさしく、ウーが抱えていた事情をわかってくれてマンションの名前や家族構成まで協力してくれた。
あまりにもやさしかったのでウーは家に帰ると、この町のためになることをいくつも書き始めたことを覚えている。
川傍の土手に街灯は着けられないのかとか、
お花畑にしたら観光客が来るようになるわとか、
電柱の近くに大きく育つ木を植えてしまった通りをどうにかできないのかとか、
電線を見ると、異常な装置が付いているのも気が付いた。
まるで(^^♪みたいな装置。
東京の電線にはついていない謎の音符が電線に何個も付いていた。
異常な数の鳥が集まる家、毒殺されたシェパード、絡んできたやくざ、おそろいの白ジャージ、天井から聞こえた巨大な足音……。この電線についている謎の装置は?

ウーはベンチに腰掛け、パンを食べながら電線を見上げてこの町の異様な雰囲気は、この謎の装置が作り出しているのでは?と考えた。

大好きなパン屋の前にベンチがある。
このパン屋は東京にあっても負けないほどのオリジナリティがあるパンを次々売り出していた。たくさんいるパン職人が月に何回かあるお店の中でのコンテストで生み出していたと聞いて、ますますこのパン屋さんでパンを買うことが増えた。ウーがどんなことを書いても影響を受けないパン屋さんなのに、よくウーのブログに来ていた。
やさしいラーメン屋さんが、いつもウーが通ると声をかけてくれた。ウーはいくらかのお金があるたびにこのラーメン屋さんで食べていた。
競うようにもう一つのラーメン屋さんがあったけど、ウーが初めて入った時は美味しくなかったのに、全然違うお店のように使っていた水から変えて、ラーメンを作り直していたのも気が付いた。お母さんから電話が来た日に、このラーメン屋さんに通った。
小さなケーキ屋さんを見つけた。このケーキを持ってウーは取材先へ向かった。
とてもおいしい定食を作っている家族でやっている定食屋さんを見つけたとき、サクッと頼んだ定食がお相撲さん製造食ぐらい豪華だったので、定食が食べたくなった日はこの店に通った。
地震が来た後、行ってみると、福島県で被災した親せきをみんな引き取るって、これからお店を少し休むけど、自分に何ができるか考えたら狭いけど、この町に来て家が見つかるまで助けていくってウーに決心を話してくれた。
まもなくこの定食屋さんはお休みし、ウーはいつ帰ってきて営業するのかなんども見に行っていた。
ウーはこの町にあった店が好きだった。大きなカツを乗せる古いカレー屋さんも大好きだった。渋谷にあったらもっとお客さん来るんだろうなって「すごくおいしい!また来ます」
こんなにいい人たちがたくさんいたというのに、どこかの悪人たちは、モスバーガーや団子屋さんを消し去った。
ウーは、消えた団子屋さんの家族が心配だった。
同じ名前の団子屋さんを見つけ、もしかしたらあのやさしかったおじさんやおばさんがいるんじゃないかと行ってみたけど、ツンとした高級品の商品が並んだ店だった。
ああ、あの家族はどこかで無事に生きているのかしら……。

「生きててよかった」というのは津波の被害を受けた人たちだけじゃないのよ、どこかの何かのためにどこかに行ってしまう人たちがいるの。
住み始めたばかりの東京暮らしでは、住み慣れた町を追い出すように嫌な電話がかかってきて、「えっ、この店を閉めるんですか?やっと出したのに!どうして?私はこの後どうすればいいですか」
ウーは、通りかかった花屋さんが電話を持ったまま、愕然としている姿と話声を偶然聞いてしまった。どこの誰が、どんな権力を持って、この町もどこかが歪んでいるんだわ……。
東京の人たちの面白いところは、異常な状況を楽しんでいる範囲が常識的だった。
「少しの異常が楽しいの、ウーちゃんわからない?」
「ウーちゃん、驚いてたね、楽しんでもらえたかな?」
街の人たちが、ウーのことなんて知っているわけがないのに、なぜだか、ウーが電話で話した内容やどこかで話したことをそっくり話し始めるのが怖かった。
青い服を着た親子が魔術を使うみたいに話しかけてきて、誇らしげにしている姿が怖かった。
ウーは、埼玉県で受けた暴言で少しのシャレや異常が受け付けられないほどおびえていることをウーは自分で気づいてなかった。

さっそく来たわ、酔っ払いのおやじやふじょしっていきものが!
酔っ払い、アルコール中毒、ねぇ、去年からアルコール中毒の意味違っているの、酔っ払いのおじさん知ってんの?
ウーは、アルコール中毒で頭がやられた若者や覚せい剤におぼれた人を「気の毒に」とつぶやかないではいられなかった。
ウーの世界では、アルコール中毒者=電話が無いと死んじゃう人
特に、タレントを装ったメールやline、友人だと思った人が突然豹変して暴言を書いてきたとか、電話で話している途中で急に電話が切れたとか、切れただけじゃなくて留守番電話に外国人が出るとか、電話がぜんぜんつながらない友達がいるとか、ウーは知らない町で嫌いな人ばっかりになって、アルコール中毒になる環境を与えられた。かかってくる電話は嫌いな相手から以外にないってどういう環境にいたかアンタたちも同じ環境になればいいのよっ!
ウーは、友人に電話してもつながらないということまで起こって、ストレスで1日で3キロも太った。あちこち友人に電話して電話が通じる相手を探すのは日常茶飯事だった。
サッカーが負けたって?
穂希ちゃんがいないからよっ!
ウーが書いた日記を参考にしていますっていう女が一度もあいさつに来ないとか、嫌いにならないでどう感じればいいのよっ!
好きになれるわけがないじゃない!ウーのマンションの名前をパクッてるし、フクロウに頼まれた仕事していたら出てきた女だってお礼ひとつ言ってこないわ
どうやってあいつらを愛せるっていうの、なにが子育てよ、バカ言ってんじゃないわ挨拶もしない女どもの母親になれるわけがないっつーの!
ウーの名前をかたっているあの女も、挨拶なしよっ!
好きになれるわけがないでしょっ
アルコール中毒に陥っていたウーは、友人が仕事の時間にも電話しないではいられなかった。心細くて心細くて、息をしているのも時々苦しくなって死ぬんじゃないかと思うような出来事に見舞われるようになった。健康被害だって起こったのよっ!今だって左肩が痛くて、腐ってゾンビのようにぼたっと床に転がるんじゃないかってそれでもあなたたち笑ってるのねぇ?
保育園堕ちた、日本死ね!って言ったオンナ、
保育園不足で、日本史勉強しろって言ってるわ

保育園が欲しい、欲しいって言っている女の顔見たことある?
ああいう顔の女が、職場にやってきて独身女へ嫌がらせして次々とうまく行っていた人間関係を破壊して自分だけ居座るのよっ、お寒くなった職場に平気でいられる強さは、子育てに必死だからってみんな知っている。必死さを売りにして子育て支援だ、保育園だって国にねだってもらってんのよっ!あんた独身なんでしょ、好きなことやればいいじゃない、あんたのような女観ると腹立つのよっ!さっさと辞めたくなるように裏ママlineでみんなに悪口流しといてあげるわ~。
保育園、埼玉県まで来たら余ってるわぁ~
埼玉県に引っ越しすればいいのよっ
役所の建て替えもできないくらい困ってるんだから、新宿の都庁観るたび、埼玉県民はむかむかしているの!
保育園に頼めなかったら暇持て余している爺さん、婆さんがいるんじゃないの?
喜んで孫の世話するわよっ

保育園を建てる土地もない東京に粘って、子供育てたいって騒ぐなんてどんな意味あるの?

独身女を社会不適合者のような扱いしてパワハラ、セクハラしてくる男どもにも被害受けてたの!ウーをこんなひどい環境に追い詰めていた本当の犯人が、宮城県にいたのよっ!
真犯人が、ウーの生まれ故郷にいたなんて、同じ目に遭わせてやりたい
だって、その男、ウーに初めて会った時、こんなこと言ったのよっ!
ウーが元気そうな姿を見て、
「アンタはもっとボロボロになればいい、ぼろぼろになってすべての財産を失えばいい」って言ったの!ウーは初めてあった男になぜこんなことを言われるのか全然わからなかったけど、とうとう男の尻尾を捕まえてしまった……・
知らない男は、町の権力者にくっついて、すっからかんになったウーの唯一の財産、何年もかけて書きためてきたものまで盗んで自分のお気に入りに売り渡してた!
ウーはね、苦しいとか言っているようで、実際に会えば全然そんなことを言わない人間なのよっ!だけど取材先で泣いたことがある。取材に行った先で泣くまで、あんたたちはウーを追い詰めて、笑ってたんでしょ?返してよっウーの財産!
ウーがもらって当然の報酬や、ウーが持っていた実績の記憶、ウーが持っていた能力、奪ってったものを返してよっ!ふざけんな、老人!





ウーに襲い掛かった恐怖は、ほとんどの場合、企業がらみだった
ウーは個人で頑張っている人をいつも応援していたからまさか、企業の偉い人という肩書であちこちの情報を携帯電話が何でもお知らせしてくれるサービスで、さっきウーが会議をしていた内容まで遠く離れた友人に知らされているとはウーだけが知らされていなかった。
このお知らせは、たいしたことでもない話を大げさに伝える癖があった。知らなかった高齢者たちは次々にこの情報サービスにハマっていった。まるでウイルスに感染したみたいにその大げさなニュースを信じて、企業のトップが小さなウーの夢を打ち砕いていく。ウーの夢は、犬や猫が飼えるマンションで念願の犬を飼って一緒にお散歩して、手掛けている仕事を達成させて自分が住んでいる町を良くしたいという当たり前の最低限、あって当たり前のことを願っただけだった。
ウーは、町を良くするためのいくつかの出来事をパソコンに書き留めていた。じきに役所に届け出を出して夢を叶えるためにコツコツ書いていたことだった。
でも、ウーはあまりにもひどすぎるこの町の姿に、いままでいた町とは全く違うこの町の人たちのキモチや治安にこらえきれなくなっていた。
あなたのお母さんが、パートに出かけた先で他人を蹴落とすために嘘を夜な夜なlineでまき散らしているとしたら?
犯罪を犯した人が夜な夜なパート仲間を蹴落とすために、他人の情報を仕事先におもらししていたら?ウーは、どうやってこのお母さんたちの情報網をストップできる?
テレビ番組のプロデューサーという言葉、広告代理店の社員という言葉になにを思う?
有名な大学を卒業しているという肩書で信用する?
お母さんたちは、よりよい生活を求めるために、彼らが仕事中の間、ブログを書くネタを提供し続けた。気に入られるために、職場でいじめを犯し、一斉にタバコを吸って、やくざまでウーに近づけた。 ウーがコツコツ書いていた職場をよくするための言葉も翌日には、テレビで発表している企業が出た。企業が考えていたことをウーの感性がキャッチしたのか企業がウーの夢を潰したのかウーにはわかるわけがない。
ウーと同じようなめに会ったアーチストが、証拠をつかむために寝ずに頑張っていた話も葬り去られた。ウーの友人も企画を若い人に盗られたと泣いていたけど、もうあきらめて仲間になってしまった。
「意外と知らない頭がいい人や金持ちがしないこと、興味が無いことを6集めました」
賃金の値上げ交渉に興味が無いって知ってた?
金儲けの話にしか興味が無いの知ってた?
貧乏な人とは話したくないって知ってた?
心が汚い人とは話したくないって知ってた?
ウーの友達は、うっかり自分が書いていたブログを見ず知らずの武蔵屋から紹介された主婦に任せたら、
「出て行けって言っても出て行かない。ウーを困らせることになるとは思ってなかった。すぐに追い出せると思ったのに、あいつ出て行かないんだ」
お金持ちは、貧乏人を雇う。雇った人の心が悪すぎて自分の身の回りにも良くなことが起きて初めてウーの大変さを知った
「ビジネスマンの前で言ってはいけない3つのこと」
ビジネスマンにおばけが出るとか、鼻くそが壁に突然現れるなんて言ってはいけない
ビジネス以外の話はタブーなんだ
ねぇ知ってる?
上司の電話番号を登録していないとイジメられるんだよ
ねえ、ねえ、ねえ、ねえ、知ってる?

ウーは、全然知らなかった。嫌いな人の電話番号なんて自分の携帯電話に登録したいと思えないから!ねえ、昨日知り合ったばかりの人のどんな人かもわからない人と電話番号を交換できる?ウーにはできない。お母さんたちがやっているような虐めの指示や嫌がらせの流布なんて全然できないんだよ
沖縄料理の店のカウンターのいちばん奥にウーと神戸の友人は座った。友人は酒が強くてハイボールダブルを頼んだ。ウーはシークァ―サーの酎ハイで乾杯。席に座ってすぐ、また友人の携帯電話にメールの着信音。”私のこと好き? 好きって言って!”にやけた友人は、どういうことかウーに話し始めた。
「武蔵屋ってとこで女を紹介されたんや。出会い系っていうんかな。しょっちゅうメールがくんねん」
デレデレ嬉しそうに話す友人にウーは、若い女騙して悪いことをしているんじゃないかと冷ややかに友人に言った。
「ずいぶん夢中なんじゃないの、相手。どんな人?」
もし、独身だとウソついて付き合っているなら友人を悔い改めさせようと思ていた。
「そんなんやないで、相手も結婚してるんよ」
ダブル不倫か!?
相手もそれなりに大人なら余計なことは言わないでおこうと思い直した。現実かそれともバーチャルの出来事なのか、ウーは友人の黒疑惑の匂いを感じていた。
そのメールに暗号文が含まれていることを見抜いていたのだ。
武蔵屋についてはウーもずいぶん前、11年も前に出会ったことがあった。当時は、武蔵●と言う名前でソーシャルの中をうろうろしている謎の組織だった。ウーはそっけない態度で武蔵●の相手をしなかったので、怒らせたとあちこちから言われたが、誰かわからない相手ににこやかに話ができるほどウーはネットヲタクではなかった。ウーがネットでにこやかに話すときは、相手がウーと会ったことがある人間か、商品や年賀状のやり取りがある相手と決めている。
当時は、チェーンメールも流行していてウーの友人が騙されたという出来事もあったので、ウーは用心深かった。「このメールを7日間の間に10人のお友達に送ってください。あなたの仕事が保証されます」というような内容のチェーンメールだ。この他にも、名前を隠してソーシャルのアドレスを作ると、次々ともっともらしい名前を書いたメッセージが届いてなんだかんだとメッセージのやり取りをするという世界があることも知っている。公務員などはこのシステムをロ要する場合、全く見ず知らずの会員に紹介メールを書いてもらって身分がわからないようにして潜んでいるということも知っていた。徹底的にウーは見ず知らずの相手とは、距離を置こうと決めたのはただの臆病者だからではなかった。呆れたのは、ウーの友人たちが次々と見ず知らずの相手とソーシャルのアドレスを交換して入れ替わるようになってからだった。ウーは暢気に私生活のあれこれを同世代のリア充に話しているつもりで書いていた内容が、どこかの大学生や高校生に読まれたかと思うと、とても続けられる気にはならなかった。
「武蔵屋では、主婦を見合いさせて情報ネットワークを拡大してるようやな」
友人の話に適当に頷いて、遠くを見つめていた。
どうしてウーの友人ばかり被害に遭うのか、シークァ―サーもなんだか味がわからないくらい憂鬱な気分になっていた。


ウーが住んでいるマンションは、無職の人間が半分以上住んでいる。仕事をしない主義とウーより10歳も20歳も若い人間がうそぶいている。昔は売れっ子だったというモデル崩れもいる。他人を蹴落とすことばかり考えているような連中は昼間から暇を持て余しているので他人のパソコンをハッキングばかりしている。同じ事務所の先輩というだけのほとんど無職の女が、ウーに付いて歩いてはイヤミをぶつけて帰る日がこの数日続いている。
もっとも、お化け屋敷だし、急に鼻くそのおばけは出るし、突如ガマガエルが現れる家よりはましかなと思ったけど、歯っかけブスや更年期障害などがぞろぞろいる暮らしは、けして快適と言える環境ではなかった。
爺さん婆さんは、不愛想で挨拶なしで、社会勉強のつもりで行った先では、立派な人間だと自慢話をするために忙しい主婦を集めて残業させるほら吹きの金持ちが、怒鳴り散らす。この金持ちに負けたくないと歯っかけブスをイジメたおして朝から泣かせるくすんだジャガイモのようなおっさんにも付き合いきれなかった。このくすんだジャガイモに嫌われたくなくて歯ッかけブスはせっせと携帯からメールを送っていたけど、話し相手は世間知らずな企業のおっさん集団だった。それがウーの友人たちだったというのは神戸の友人がわざわざ埼玉まで来ると言った時に知った。
「こっちまで来るのたいへんでしょ、銀座あたりで食事しようよ」
とウーは、東京駅の近くに宿を決めるように友人に言った。
 銀座のウーが大好きなアイスバインがあるドイツ料理のレストランに友人を連れて行った。
「神戸は、お肉よく食べるって聞いたけど、牛肉だもんね、豚肉がこんなにたくさん出てくるのは珍しいでしょ?」
「そやな、銀座言うたら女優さんがいっぱいいるイメージやな、なんていうたかな、洋服の一流ブランドの御曹司と結婚した綺麗な女優、おったな」
たわいもない話をしてとても楽しかった。
場所を変えて東京駅の地下の沖縄料理の店で飲み直すことにしてお会計を済ますと、友人の携帯電話が鳴った。
友人の顔がにやけた。間違いなく女からだ。
メールを返している。
「なんて書いたの?」
「それがな、まあ店に付いたらゆっくり話すわ」
友人はちらっと携帯電話を見せてくれた。
明らかに、友人を口説いているようなメール内容。
「出会い系サイト?」
「んーちゃうねん、この間、武蔵屋ってとこに飲みに行ったときにな、紹介されてん」
「武蔵屋って何?」
「居酒屋や、地元の」
ふーん・・・・・。