りーちゃんは最近、絵心に目覚めたようだ。

このところ家では毎日のようにぬりえの冊子に色を塗っている。描かれているシルエットに沿って色を塗ることもあれば、全然違った形で色を塗っていることもある。一方でおままごとの食器ではあまり遊ばなくなった。

以前はおもちゃのナイフやスプーンをあごに当ててピロピロしていたのだが、最近は代わりにペンをあごに当ててピロピロしている。そう、あごの触覚(第1話参照)は健在なのだ。1本1本の感触を確かめるのも変わらない。そして、ピロピロの最中に違うことをさせようとすると、りーちゃんは力の限り抵抗して嫌がる。

学校でもいろいろと美術っぽい活動があるようで、毎週のように作品を持って帰るりーちゃん。少し前にきのこのぬりえのようなものに色をつけた作品があったのだが、なかなかキレイだった。家で「上手に描けたね~」と褒められて、「ほら、きのこ。きのこよ」「きのこかいたね~」と本人も得意げだった。

そんな日々がしばらく続いていたら、今度はなんと、りーちゃんの絵が入賞して、近くにある公共の施設で展示されるのだという。なんでも学校の代表だと。これにはマミもダディもびっくり。しかも絵のタイトルは「きのこ」だった。

ダディは休みの日にりーちゃんを連れて、実際に展示されている様子を見に行った。確かに、りーちゃんにしてはとてもよく描けていた。色使いもとてもきれいだったし、4つのきのこの顔(?)らしきものも、それぞれ表情が異なっていて素敵だった。

そうは言っても、もちろん、特別枠のようなものであるのは間違いない。学校からはりーちゃんを含む7人の絵が入選していたが、1学年に1人ずつでりーちゃんの学年(6年生)だけ2人だ。思い返せばりーちゃんは、去年も一昨年も版画で「奨励賞」なる賞状をもらってきていた。

こうした配慮のようなものは、その是非について人々の意見も分かれるだろう。我々はりーちゃんの親なので、もちろんとてもありがたいが、とても申し訳ないという気持ちもある。他にも素敵な作品を制作しながら、賞をもらえなかった、というお子さんも少なくないと思うからだ。

そうしたいろいろな思いを抱えながら、やはり娘のことは褒めてあげたいし、実際、たくさん褒めた。そしてりーちゃんは今日もまた、あごでペンをピロピロしながら、ぬりえに色を塗っている。