りーちゃんは小学校の最終学年。小学6年生のビッグイベントといえば修学旅行だ。いまだにおむつは取れておらず、気分が乗らなくてしゃがみ込むと30分以上動かないこともあるりーちゃん。とてもじゃないが、集団での1泊旅行は難しいのではないか、とダディも思っていた。

先生たちも同感だったようで、事前の話し合いでは両親のうちどちらかだけでも同行して、りーちゃんが動かなくなったらヘルプを、という話も出た。バスで名所などを巡ったりするので、時間通りに行動できないと全体に迷惑をかけてしまう。地元からの往復は特別列車なので、それに乗れなくても困る。

とはいえ、親がいなくても修学旅行に行くことができた、となれば本人の成長や自信につながる。マミはどちらかというと親が同行せずに行かせたいと思っていた。悩ましいところだったが、先生方との話し合いの結果、両親とも行かずに本人に頑張らせてみよう、ということに。最悪の場合、りーちゃんがどうしても動かなければタクシーで移動してください、と。

担任してくださっている支援級の先生は2年前にもりーちゃんの担任だった。当時はりーちゃんがしゃがみこんでも力技で抱きかかえて移動させることができた。しかし身長140センチ弱、体重も40kgほどあろうかという立派な体格に成長したりーちゃんを抱きかかえることは、ダディにももはや容易ではない。

「たった2年でこんなに違うんですね~」と先生とダディで話していた。子どもの成長は嬉しいことだが、りーちゃんも重くなった自身の体格を計算してしゃがみこんでいるようなときもある。前とは違って、ダディも先生も簡単にはアタシを動かせないでしょ、と言わんばかりに。

岩のように重くて持ち上げられない、というよりは、体が柔らかいのでわきの下などで抱えようとしても、スルンと抜けてしまうというか、つかみどころ(抱えどころ)がないのだ。一般的にダウン症の人は体が柔らかいらしい。

そして、一体どこにそんな力が、と思うような馬力で抵抗するので、なかなかこちらの思うようにいかない。思えばりーちゃんもちょっと前までは抱えられっぱなしの人生だったのだが、抵抗できるとわかると技術とパワーを駆使して抵抗し放題だ。

さて、修学旅行の当日、他のお友達は駅前までのお見送りのところ、りーちゃんだけは両親がホームまでお見送り。これは、「乗らない!」と言ってしゃがみこんだりした場合の保険として。しかしとてもスムースに歩き、ニコニコしながら元気いっぱいで特別列車に乗り込んだ。マミとダディにたくさん手を振りながらりーちゃんは出発した。

修学旅行中も何かあれば連絡が来るに違いない、最悪は車で迎えに行かなければならないかも、と思っていたマミとダディだが、1日めは何の連絡もなかったので夜はお酒を飲んでしまった。2日めも何の連絡もなく、りーちゃんは予定通りの時刻に、先生に手をひかれながら駅前まで戻って来た。

マミを見つけた先生は興奮気味に話していた。「すごかったんですよ~。全部みんなと一緒に回れました!もう完璧でした~」と。連絡がなかったので大きな問題はなかったのだろうと思っていたが、どこに行ってもしゃがみこまずにほぼ全行程をこなすことができたとは!マミもダディもびっくりである。りーちゃん得意の「おうちかえりた~い」も一度も発動されなかったらしい。

お土産は事前の打合せどおり、マミ、ダディ、お兄ちゃんにそれぞれ買ってきてくれた。先生が選んでくれたのだろう。「お母さん」「お父さん」と書かれた箸とキーホルダー。箸は夕飯から早速使わせてもらい、ダディが「これ何て書いてあるの?」とりーちゃんに尋ねると、「しゃーりー」と一言。最近りーちゃんが連発している謎ワードの一つだ。

続いてマミが「何て書いてあるの?」と聞くと、なんと「おばあちゃん」と!マミが悲嘆に暮れていたのは、言うまでもない。2日間くらい立ち直れなかった。

修学旅行から帰ってきても、「滝、見たねぇ」とか「電車でオベント食べたねぇ」などと嬉しそうに話すりーちゃん。一人で修学旅行に参加できて、少しは成長したかな?

そして先生方の多大なるご尽力ご協力、本当に本当にありがとうございました。