どーもナオヤです。
こんなナオヤでも恋をした事があります。
決して叶わない恋を。
突然ですが、みなさん人魚って信じていますか?
ナオヤは信じています。
いや、信じていると言うより知っているのです。
そう…その叶わぬ恋の相手とは人魚だったのです。
あれはナオヤが二十歳の頃。
ナオヤは海の綺麗な町へ旅行へ出掛けました。
春の優しく暖かい陽射しを浴びながら、一人のんびりと波打ち際をパチャパチャと散歩していると…。
ん?なんだあれ?
その海には岩場があるのですが、その岩場に一瞬人が見えたような気が…。
おかしい…明らかにおかしいのです。
いくら暖かい陽気だとはいえまだまだ水温は冷たいはず、海水浴なんか出来るはずがない。
だってその岩場は20メートル程沖に向かったとこにあるのだから。
ナオヤは足を止めて岩場をずっと見詰めていました。
う~ん特別変わった様子はないなぁ…でも誰かがいたように思ったんだよなぁ…。
すると不思議な事が起きた。
波の音とカモメの鳴き声、時折聞こえる近くの道路を走る車の音に混ざって何が聞こえて来るのだ。
自然の音ではない何かが。
ナオヤは耳を澄ましてみた。
~♪
~♪
~♪
これは…歌?
微かではあるが歌が聞こえるではないか!
聴いた事も無い歌だったが、透き通ったその歌声はナオヤの心の中心にまで染み込んできた。
美しい…でもどこか哀しくて淋しい歌…。
気付くとナオヤは上着と財布とケータイを砂浜に置いて海に入っていた。
何をやってんだ俺は?
服を着たまま海に入るなんて。
でもあの岩場に行きたいんだ。
理屈じゃない、細胞が求めているんだ!
この歌声の主を!
ナオヤは無我夢中で泳いだ。
水温は冷たく、服は体に纏わり付き酷く泳ぎにくかったが、そんなのどうでもよかった。
あの岩場に行くんだ。
あの歌声が呼んでいるんだ。
まるで歌声がナオヤの心臓を引っ張っているかのように全身が岩場に引き寄せられた。
今まで生きてきて何度も『運命』という言葉を使ってきたが、実際のところは『運命』を感じた事は無い。
今初めて心から感じて『運命』という言葉を使う。
これは運命だ!
偶然この海岸に来たのも、歌声を聴き、そして惹かれたのも、今こうして必死に泳いでいるのも全て運命なんだ!!
がむしゃらに泳いでナオヤは岩場に辿り着いた。
この岩の向こうにその人はいる。
近くで聞く歌声は形容する言葉が無い程に純粋で、ナオヤの心から入り鼓動を使って全身に運ばれて行った。
まるで液体のクリスタルが細胞の一つ一つにまで満たしていくようだった。
上手く説明出来ないが、そう感じたのだ。
ナオヤは無意識で立ち上がり、岩の向こう側を覗いた。
歌声が止まった。
その人は驚いた表情をして振り返った。
そしてあっという間に海の中に消えて行ってしまったのだ。
珊瑚と貝殻で出来た白い首飾りを残して…。
今のは人だったのか?
でも海に潜る一瞬だけ鱗(うろこ)やヒレが見えたような…。
人…魚…なのか?
ナオヤは放心状態で見詰めているだけだった、彼女が消えていった海を…。
白い首飾りを手に…。
翌日ナオヤは岩場にいた。
もちろん彼女の忘れ物を持って。
昨日のあの出来事が頭と心…いや、全身に染み渡ってしまい、彼女の事以外考えられなくなっていたのだ。
昨日彼女が座っていた場所に腰を下ろし、海を見詰めて待った。
運命を待った。
何時間経過したのだろうか、ナオヤは眠くなり夢うつつの中にいた。
カチャ…カチャ…
ナオヤはうとうとと夢と現実の境目にいたが、その音は夢ではなく現実から聞こえてきた。
ナオヤは我にかえり、目を開けた。
そこにはナオヤの右手に握られた白い首飾りを引っ張っている彼女がいたのだ!
再び海に消えようとする彼女に叫んだ。
「待って!ちょっと待ってくれ!お願いだから逃げないで欲しいんだ!」
彼女は上半身だけを海面から出してナオヤを見ている。
近くもなく遠くもない距離を保ちながら。
「ちょっとマジで待って!いや俺怪しくないから…つっても怪しいか…あ!これ!この首飾り返すよ!君のでしょ?だから戻って来てくんないかな?」
彼女は不安そうな目でナオヤを見ていた。
「大丈夫!俺なんもしないから!どうしても君に逢いたかったんだ!ね!だから戻ってきて」
!?
何だ!?
何か聞こえる!
耳からじゃない、何か心に響いて聞こえる!
「返して下さい…」
不思議な感覚だった。
自分以外の人の気持ちが心に入って来るのだから。
ナオヤは言葉を話しても通じない事に気付き、喋るのを止めた。
そして心を落ち着かせ、言葉を思った。
「ごめんね驚かせちゃって、大丈夫だよ何もしないよ」
すると彼女の心がナオヤの心に入って来る。
「それ返して下さい…」
「うん返すよ…でもお願いがあるんだ」
「なんですか…」
「もう一度歌を聴きたいんだ…昨日歌っていたあの歌を…」
彼女は少し困った顔をしていた。
ナオヤは再び言葉を彼女の心に送った。
「信用して…ここにいるのは俺と君だけだし、俺は君を傷付けるような物は何も持っていないよ…じゃあこうしよう、先に首飾りを返すよ…信用出来なかったら海に帰ってもいい…もし信用してくれたなら歌ってくれないかな…」
ナオヤは足元に首飾りをそっと置いて岩場の真ん中辺りまで行って座った。
彼女は恐る恐る首飾りに手を伸ばし、首飾りを掴んだ瞬間に海に消えてしまった。
「あぁ…やっぱ駄目だったかぁ…」
ナオヤはその場に仰向けで寝転んだ。
春の青い空が気持ちよかった。
のんびり流れる雲を数えていたとき…
~♪
~♪
~♪
あの歌声が聞こえて来た。
ナオヤは空を見詰めながら歌を聴いていた。
涙が溢れ出して来る。
知らない言葉で歌われている生まれて初めてのその歌は、生まれて初めての心を揺さ振る歌だった。
歌と同時にナオヤの心に彼女の心が入って来る。
なんて切なくて哀しいんだろう…まるで海の底にいるようだ…。
完全に彼女の心が重なってナオヤは子供のように泣いた。
すると突然歌が止まった。
彼女はナオヤの心に語りかけてきた。
「何をしているのですか?」
ナオヤは涙を拭きながら彼女の心に聞いた。
「え?なにって?」
「何で声を出して瞳から水を出しているのですか?」
「え?泣いているんだよ」
「泣くって何ですか?」
「人間は感情を大きく揺さ振られた時に涙が出るんだよ、嬉しい時、怒った時、哀しい時、楽しい時、自然と涙が出て来るんだよ…それを泣くって言うんだよ…」
「人間って不思議…人魚には無いです…涙も泣くも…半分人間なのに…もし人間みたいに泣く事が出来たら少しは楽になれるのかな…」
「じゃあもっと君の心を俺に送って、君の悲しみを俺に送って、そして俺の涙を自分の涙だと思って…俺の泣いている姿は自分の泣いている姿だと思って」
その刹那、強烈な哀しみがナオヤの心に溢れた。
一体彼女はどんな哀しみを背負っているのだろうか。
どんな傷を引きずっているのだろうか。
ナオヤは涙を流しながら海に近付いた、彼女もその瞳に深い哀しみを浮かべてナオヤに近付いて来る。
彼女はナオヤの涙に触れながら心に語ってきた。
「不思議…少しスッキリした…これが泣くなんですか?」
「そうだよ…これが泣くだよ…」
彼女はナオヤの涙を自分の唇にあてた。
「海水みたいな味がする…何でですか?」
「何でだろうね…昔人間は人魚だったのかな…人間に変わる時に人魚だった事を忘れないように瞳から海水が出るようにしたのかな…」
すると彼女は楽しそうに笑った、勿論ナオヤも一緒になって笑った。
その後たくさん話した。
正確には言葉を喋ってないのだから、たくさん感じたと言った方が正解だろう。
次の日も…
その次の日も…
ナオヤは彼女とたくさんの時間を共有した。
ナオヤが経験した楽しかった事、嬉しかった事、可笑しかった事を彼女の心に送った。
彼女もまた色んな事を送ってくれた。
ナオヤが知らない世界をたくさん教えてくれたんだ。
人魚の事、誰も知らない海の世界の事。
そしてナオヤは翌日帰る事を彼女に伝えた。
本当はもっといれるのだけど、ナオヤには辛くなってきたのだ…。
ナオヤは気付いていた…時折『好き』という彼女の感情がナオヤの心に流れ込んで来る事を…。
そして恐れていた…『好き』から『愛』に変わり始めた感情が彼女に伝わるのが…。
彼女の話によると、人魚は陸上では一時間もしないで死んでしまうらしいのだ。
元から叶わぬ恋、それならこれ以上深く繋がる前に離れた方がお互いの為だ。
突然の別れを告げられた彼女は酷く哀しい顔をしていた。
そしてナオヤの心に送ってきた。
「貴方の瞳から流れている涙が私の気持ちです…サヨウナラ…」
そう言い彼女は海に消えて行ってしまった。
ナオヤは海に向かって呟いた。
「この涙は君の感情が重なって流れただけじゃないよ…半分は俺の涙だよ」
翌日は暑いくらいの陽気だった、しかしこんな哀しい別れの日はどうせなら雨の方がいいと思った。
運転手とナオヤしか乗っていないバスに揺られながら思っていた、彼女との時間を、彼女の気持ちを…
思った
思った
想った
ナオヤはバスを降り海岸に向かって走っていた。
未来なんか知らない!どんな恋にだって苦しみはある!
俺は君に逢いたい!!!
海岸に辿り着いたナオヤはすぐに彼女を見付けた。
彼女は待っていてくれてたのだ。
動かなくなって…。
死んでしまうと分かっていながら海から出てナオヤを探し回ったのだろう。
彼女の瞳の周りが少し濡れていた…。
彼女は生まれて初めて泣いたのかな…。
こんな時人は何も出来ない、ただ泣き尽くすだけだ。
結果的にあなたを殺してしまったナオヤは悪魔だったのかな…。
暑い陽射しに焼かれながら命懸けでナオヤを探し回っていたあなたを想うと哀しくて言葉にならない…。
ごめんね…あの日岩場に行ってしまって本当にごめんね。
長くてごめんなさいww
